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うちのこ*うちはさん兄弟のクリスマス


行き交う人々で賑わう繁華街の中心にこの時期だけ設置される樅の木がある。
ここに欲しい物を紙に書いて吊すと、聖夜にサンタクロースが現れ、それを届けてくれるという。
ただし、よい子にだけ。

まるで七夕を彷彿させるようなこの計らいは、異国の伝来を随分と気に召した三代目火影が備えたもの。
子供達はこぞって樅の木に吊し、親達がそれらを用意する。そして里役場に物品を託す。
依頼された玩具を白い袋に詰めて橇に乗せ、奈良の馴鹿に引かせるは、童話の人物に扮したうちは警邏隊を中心とする幻術使いなる忍達。その任務を仕切るフガクは、最終確認や手配やらで、今日は朝から一段と忙しなくとしていた。

フガクの家には、イタチとサスケの二人の息子と、乳幼児の間だけと預かったナルトの三人の幼子がいる。
最近は、サスケを追ってナルトもヨチヨチと歩くようになったから、益々と二人から目が離せない。夕餉の支度をするミコトの目の届く居間で、三人仲良くと積み木で遊ぶ子供らは、フガクの事情など知る由もなく、一家団欒の時を待ちわびていた。

「イタチはサンタさんに何をお願いしたの?」
「内緒…。」

はにかんだイタチの願いは届かない。イタチ自身も幼いながらに知ってはいたが、一番の望みはそれで。解っていながらも
それ以外はないと記したのだった。
ミコトは樅の木に吊されたイタチの願いを見つけるなり、叶わない夢だと溜息を放つも、優しい我が子を愛おしんで、少しでも貢献出来ればと、寝る間も惜しむ事なく、その想いを形にした物を既にフガクに届けていた。せめてもの親心だとして。

「…そうね、秘密にしておくのが一番いいかもね。」

台所で七面鳥を調理しながらに、ミコトは微笑み。夕餉の支度に丹誠を込める。
余り御目見しない洋食の香が居間にまで漂うと、玄関が開く音が聞こえ。ミコトは大黒柱を迎えに其方へ足を運んだ。

「お帰りなさい。」
「これ…買って来たぞ。」

ミコトに手渡された四角い箱は去年のものよりも大きく。家族が増えた事を無言ながらに伝えるフガクの不器用な想いを読み取りミコトが微笑む。

「大変なのに、ありがとう。アナタ…」
「否…。それよりイタチには万全を来たさないとな…。アレは優秀故、オレの幻術をも見破るかも知れん。」
「その点は大丈夫よ。イタチの分には、ちゃんと仕込んでおきますから。」

うふふ…とミコトは明るく笑い。睡眠作用のある丸薬の瓶をフガクに見せ付ける。その様に眉間に皺を刻むも、それならば大丈夫かと複雑さをつけ一件には安堵する。
それからミコトは、いそいそと居間に一度訪れ。フガクから手渡された箱を静かな手付きで食卓に置いた。

「イタチ、悪いけど、コレお願いね。」
「はい、母上。」

イタチに場を託し、廊下を渡るフガクに伴い、夫婦の部屋へと向かう。

立ち上がって座卓に置かれた四角い箱に触れるイタチに興味を示すはサスケとナルト。

「にィたん。」

イタチを追って、立ち上がったサスケにナルトが続く。

「タッケ!」

派手に積み木を崩してヨタヨタと歩き、サスケの背中を追い掛ける。

ミコトが置いた箱を取り囲むように並ぶ子供達。
期待に胸を弾ませてイタチが慎重に箱を取り開ければ、大きな洋菓子が現れた。
丸い形を縁取る白いクリームの上には真っ赤な苺が並び、その中心にはMerry Christmas!との文字がチョコレートで細くと書かれ。次いで小さな木の家を模したチョコレートの菓子とサンタクロースの砂糖菓子が飾られている。おそらく甘味処で売られてた物だろうが、これは、滅多にお目にかかれない代物であるが故、甘いものを好物とするイタチは父親の計らいを大いに喜び。クリスマスケーキに取り込まれるように魅了されていた。

「マンマー!!」

そんな折だった。
イタチがケーキに見とれていた隙をつき、目にも止まらぬ早技で、ナルトが座卓へと這い登り。弾力ある菓子の上にベチャっと小さな掌を押し付けた。

「嗚呼!?」

チョコレートの文字は一瞬で潰れ、チョコレートの家が傾きかける。

只、呆然とするイタチ。サスケは座卓に両手を着けて、へっへと呼気を弾ませては、ベチャベチャとケーキを叩き、クリームを飛び散らせてキャッキャとはしゃぐナルトを大人しく眺めていた。

ぐにゅッと苺を握り潰して、クリームだらけの手を口へと運び、にまぁーとナルトが笑う。

「ぁんマァーうッ!」

サスケと目が合うと一段とニコッと笑うナルト。両手をケーキの上に勢いよく降り下ろして甘く柔らかな生地を握り掴み。その手をサスケの口へと伸ばす。

「タッケェ!、マンマンマァ〜‥」

「…ぁぐッ!?」

サスケの小さな口に甘いケーキが次から次へと押し詰められる。

「ンマンマァ〜!!」

「!!?、む‥ぅう゛!!」

口以外にも取っては掴むクリームがサスケに押し付けられ、サスケはナルトに強要される甘さと息苦しさに咽ぶ。

「ン!?‥あ゛‥がッ!!」

「うンマ、ンマ〜!!」

楽しげに苺やクリームをサスケの口や鼻にグリグリと押し込むナルトは、自分が口にした美味しさをサスケに分け与えたかったようで。意気揚々とケーキを握り掴んでは、サスケにそれを与え続けた。

「ぅう゛ぐほ‥…、ケホ…、ひィ……う…―――ぐんンン!!」

その様子を、ショックの余りか、放心状態となって漠然と眺めていたイタチだが、サスケが苦しそうに涙を浮かべてるのを目にし、ハッと我にかえり。サスケを抱き、大急ぎで口からケーキを取り払った。

「大丈夫か?、サスケ。」
「うっ、けほッ…、あっ‥、ぅ‥、うわああぁん!!」

泣き喚くサスケは、この時以降、甘い物を嫌う。

クリームだらけとなったサスケの顔や口を手で払いて、ヨシヨシと抱き揺らして宥め。
ナルトを「めッ」と叱りつける。
ナルトはイタチに怒られた事により、ビクッとして手を止め、良かれとしたのに何故…といった様子で、クリームのついた人差し指を啣えながらにイタチを見詰めて首を傾げた。それから何か思いついたかに、にぱァーと笑い、再びケーキをぐちゃぐちゃっと両手で掴み、今度はイタチの口へと甘い拳をぐぼッと突っ込む。

「む!!?、ぐぅ…!」
「にィに、…マ?、ぅンマ?」
「………あ、…うん。美味しいよ、ナルトくん。」
口に広がった甘味にイタチがにこりと微笑むとそれが嬉しかったらしく、ナルトもニィと小さな前歯を見せて笑った。

「ンま、うまァ〜!!」

我が子の泣き声を聞きつけ、ミコトが駆け寄り、相次いで何事かとフガクが慌てた様子で居間を訪れた。

「アラアラ、ナルトったら、随分とケーキが気に入ったみたいね。」
「母上、…そういう問題では…」
「マァマ!…パッパ!!」

クリーム塗れの手をバタバタさせて屈託なく笑うナルトと、見るも無残なケーキ。
頬にクリームの欠片を残して、えぐえぐとイタチに抱かれて泣くサスケ。

フガクは我先にと、サスケを掲げ抱き。大事に至らなかった事にホッと胸を撫で下ろした。

「すみません、父上。オレが箱を開けたばっかりに…」

シュンとした顔でイタチが頭を下げる。フガクはイタチを責めず、「うむ…」と鈍く瞬いてから片手でサスケを抱き、イタチの頬についたクリームを優しく取り払った。
それからナルトを一瞥して、フ…と笑い。クリームだらけのナルトを空いた腕で抱きかかえ。イタチへと視線を放った。

「夕食が並ぶ前に、皆で風呂に入るとするか…。」
「そうね、そうしなさい。」
「はい。」

今までにない事だと、二人の乳児を抱える父の背中についてゆくイタチは、これがサンタクロースのプレゼントだと廊下を歩みながらに夜空を馳せて、一人微笑んだ。

四人で入る風呂はイタチにとっては非常に楽しいものだった。
見た事もない父の豊かな表情と、暖かい湯にはしゃぐ、二人の弟に心を和ませ。大きな父の背中を感謝を込めて流しては、いつかは父を超える優秀な忍になろうと強く決意する。

風呂から上がると、豪勢な洋食に飾られた食卓と、母の優しい笑顔が皆を出迎えた。
賑やかな団欒。楽しい夕餉。欠片となってしまったケーキの上に、赤や青、黄色に緑の蝋燭を立て、火を灯せば、聖夜の雰囲気に包まれ、気分が高まる。

「美味しい。ありがとう、父上、母上。」


辛うじて無事であったチョコレートの家とサンタクロースの砂糖菓子が乗るケーキを頬張るイタチは、実に子供らしい笑顔を浮かべていた。
サスケやナルトもそんなイタチと笑顔並べ、満腹となって寝床へ着く。
イタチはケーキを全部食べたかどうか解らない内に眠ってしまったようで、いつベッドに入ったかも知れず。静かな寝息を立て、夢の世界に意識を落としていた。

「学業に二人の面倒にと、一年間、良く頑張ったな。心優しいお前の願いがいつしかか届くと祈って、メリークリスマス、イタチ…。」

そっと頭を撫でるサンタクロースの声は、どこか聞き覚えのある音色で。
その手の温もりさえも、親しい者の感覚と捉えるが瞼は開かず、夢の中だと自覚し微睡み。無意識に口元のみで笑みを象って、置かれた包みをこれまた意識無しに抱え込んだ。

次にサスケとナルトの寝る部屋へと忍び入りて、それぞれ揃いとなる贈り物を頭上へと並べ置き。何も知らず解らすとする無垢な寝顔へと想いを馳せ、ソッと順々に二人の頭を撫でた。





翌朝、イタチの部屋の机にはサスケとナルトとイタチを模したマスコット人形が飾られ。
庭先で洗濯物を干すミコトの側で、青い小さな靴を履くサスケと、橙色の小さな靴を履いたナルトが、仲良くと白い息を弾ませながら、シャリシャリと霜を踏み。互いの顔を見てはニコニコと笑い合っていた。





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