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Windfall


良く晴れた夏空の袂。気温を上昇させる一方の眩い陽が、金色の髪に反射し、半袖のラフなシャツから覗く肌を一層と健康的に照らす。
高くと昇った太陽の光をエネルギー源とするかに弾む足取りは機嫌良く。繁華街の路地より好物の香の漂いに鼻を鳴らして表情を緩めるも、立ち寄る事なく目的の場所へと進みゆく。


「こんちはァ。」

「いらっしゃーい!って、あら、ナルトじゃない。」

先ずは第一の目的地である山中いのの家が経営する花屋へ足を踏み入れた。勿論、花を購入する為。

「アンタがうちに来るなんて珍しいわね〜。一体どーゆー風の吹き回しかしらァ?」

営業スマイルとは違った何か勘ぐった様子で笑ういの。看板娘である彼女は任務休みの合間、店を切り盛りしているのは今に始まった事ではない。

「花束、買いに来たってばよ。スペシャルで、めでてー感じの!」

「お祝い事?」

「オウ。」

「何の?」

「…誕生日の…――だってばよ。」

「お誕生日ねぇ〜…」

首を傾げ、頬杖を着く肘を反対側の掌で支えるようにして、いのが思考を巡らせる。
今日、誕生日である人物と云えば一人しか思い当たらないが、ナルトがその人物へと花束を贈るなんて事はとても考えられない。それはどんな状況であっても当然。何かと里外にも交友が多いナルトの事だから、きっと何処かの里の誰かの誕生日プレゼントに違いない。けれども、あのサクラにさえ花束なんて贈った試しはないのに……(もしかしたらデコリンちゃんの事は諦めてぇ〜誰か他に好きな子でも出来たのかしらね。)そう余計な節介とする予測をつければ少し意地悪気味にクスと笑った。
ナルトはそんな彼女を尻目とし店に並ぶ色とりどりに咲いた数々の花を眺め、半ば己が愉しむように何が良いかと見繕っていた。

「だったら薔薇をオススメするわ。」

「バラ?」

「今日の誕生日花は薔薇だし、何よりゴージャスでプレゼントにはピッタリよ〜!」

「ふーん。そんじゃ、バラにすっか。」

「ピンクとか淡いオレンジとかふんわりしてて可愛いわよー!!、ホラこ〜んな感じで。」

パパッと見繕い束ねた薔薇の花は確かに涼しげで柔らかい色合いである。

「う〜ん、…そーだなァ。別にカワイクなくていいかも。」

そう言って吟味するかにナルトが選んだのは青の薔薇。
表示した値段より高級だと知れる其れを敢えて選出したのは、口振りからして物珍しさだけではなさそうだ。
(青い薔薇を選ぶなんて相手は年上の女性かしら? 年齢的にも大人の女性に憧れちゃったりする時期よね〜。まあ見込みもないブリッコデコリンちゃんよりナルトには案外その方がお似合いだったりして。)胸内で呟いては一人うんうんと頷きつつ、サービスだとして白いかすみ草を周りにあしらい。暑気払いなる色合いとなった花を丁寧に束ねつけた。

「はい、お待ちどーさま。お誕生日用のメッセージカードも添えとくから、空欄に何か書いとくと印象バッチリよ!」

人差し指を立てウィンクするいのの気遣いが嬉しく、ニッと白い歯を見せ笑う。

「へへ、サンキュー!」

代金を払い、機嫌良い笑顔を振り撒いて店を出たナルトは、次なる方向へ足を伸ばしていた。

市街地から逸れる程に有機が溢れ、緑栄える景色の陰間が涼を醸し出す。
土手道に沿った並木の葉がそよぎ、湖水を揺らして吹く風が舞い上がれば、益々と清々しい。

幼い頃に遊び慣れた公園を過ぎ、桟橋を見下す位置に差し掛かると自然と足が止まる。

フンと互いに外方を向くも、同じような孤独感を抱いた存在に安堵して笑みを浮かばせていた“あの頃”を思い出しては実感する。言葉は交わさなくとも似通った感情は、今となっても変わりなく…と。

そう確信して瞼を閉ざし、見えなくなった背中へと思いを馳せる。

追い抜き追い越されを繰り返して認め合った途端、すり抜けてしまったのは、決して戻らないとして距離をあけた訳ではない。そう身勝手に貫くのは、繋いだ指先を通して彼の虚無と真実が知れたからだ。

憧憬は遠きに在りて、近付けば蜃気楼のように消え失せてしまうもの。
追い付けども更に距離をつけ、掴み切れる事は不可能に等しいが、目標とも導きともなり、努力を惜しまずとする。

まるで砂上の楼閣なのは、むざむざと眼に映る現実の方にも思える………――などと、難しい理念に見舞われてしまえば、険しくと眉は歪み。様々な思考がぐちゃぐちゃと交錯して何だか己でも理解し難くとなった。

「ま、アイツは必ずオレが決着をつける!って事でヨシとして……、取りあえず暑さで花が萎れねー内に届けねーとな!」

複雑さを掻き消して当初の目的を果たすべくと再び歩き始める。

短絡的に逸る気持ちに足取りを任せると、いつの間にやら其処へと辿り着いていた。
里の中心部から隔離されたような感じで佇む寂然とした空間には人気など在る筈もなく。主を失ったかに雑草が生い茂る。

「えーと…。」

その最中をきょろきょろと金糸を振りながら似たような石盤に彫り込まれた文字を読み取り、その小路間を渡りゆく。

「あー!! あったあった!ココだってばよ!」

漸くと発見した墓石は他と違ってきちんと手入れされており、手詰みだろう野花が花壇にも飾られていた。

「サクラちゃんも来たんかな?」

こんな気の遣い方をするのは彼女しか思い当たらず。疑問符つけた詞を付けた物言いをするも、そうに違いないと決定つける。

「だったら、コレはココに置かせて貰うってばよ。」

ニッ笑うと腰を屈め落とし、用意した青い薔薇の花束を墓石前へとそうっと置き。メッセージカードの空欄を埋めたくと、ポケットよりペンを取り出し。追悼よりも感謝を記した思いを小さなカードに書きあぐね。対象とした者をイメージしたかの風合いを醸す誕生日花へとそれを添え、照れ臭そうにはにかみつつ亡き者達へと贈呈する。

「今度は必ずアイツと一緒にココに来っからさ。だから何があっても安心して、ゆっくり眠ってんだぞ!」

元気良い声を響かせた後、パンッと威勢良く手を打ち鳴らし。合掌しては次に静かと黙祷を捧げ。
暫くして持ち上がった目蓋より、夏の空と同等なる色をした瞳を輝かせて立ち上がった。
そうして、天を仰ぎ見ては明朗でいて優しげな笑みを、高い上空へ放つ。

「…約束だってばよ。」

思い届かぬ相手へと意思めいた詞を紡げば、踵を翻し。後戻りも後悔もしないと表明した背中を墓標に向けて辿った小路へと足を通わせる。

小さくなりゆく少年の溌剌とした後ろ姿を気配を立てずと見送る輩が一人、隙を縫い花束を手に取り魅入る。

贈り主の虹彩よりも鮮やかさを発する青い花弁。何にも染まらないような純白の可憐な小花。
その双方を強いて綴られた小汚い文字には思わず、張り詰めた糸が緩まった。

「…ウスラトンカチが。」

「へ?」

静寂とした風に乗り、伝わった懐かしい野次。

驚愕を隠せないナルトはバッと振り返って花束を贈った墓石へと駆け寄り。刹那、神経を研ぎ澄まして気配を探った。しかし、姿は収められずと直ぐさま見限ってしまう。

「そーだよな、空耳に決まってるよなァー!!」

置かれた花束から一本だけ抜かれた薔薇の行方を知りもせず、掲げた両手を後ろ頭で組んで、くるりと背向き。

「あのバカが、こーんなトコに来るなんて、絶ッ対ェに有り得ねーかんな!!」

四方に響くような大声を張り上げ、其方には振り返る事なくと噤んだ口幅に気恥ずかしそうな笑みを滲ませた。
同時、建ち並ぶ墓石に身を隠し置いていた澄ます御尋ね者も、ナルトのそうした意図を見抜いたのだろうか、此の時ばかりは憂いを払い。
その口許に上弦を描かせていた…―――





手詰みの野花に混じって凜として咲き誇る薔薇が殺風景な空間を彩り。靡く風にその香を薫揺らせて、普段は復讐に取り憑かれ荒んだ態度を演じる少年の心にも、小さなメッセージを届けた。

それは、ナルトにとって大切な存在なる者が生誕した、とある日の昼下がりが招いた偶発なる風采だった。




サスケの母ちゃん、
サスケを産んでくれて
ありがと。




  7/23 Happy birthday
SASUKE



あきゅろす。
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