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Happy Happening

忍者学校(アカデミー)が終わると、一人暮らしの部屋に一旦帰ってから荷を放り投げ、喉の乾きを潤す為、冷蔵庫に入った牛乳をゴクゴクと喉を鳴らし、一気に飲み干す。

「あーっ、うめェ!」

満足というように拳でグイと唇を拭い、無造作に牛乳を冷蔵庫に戻しバタンと乱暴に閉め、また外へと飛び出す。
…と、いうのがナルトの日課となっていた。

向かう先は、いつもの公園。彼処に行けば必ず誰かしらに会う事が出来るからだ。知っている子供であろうと、全く見知らぬ子供であろうと全く問題はない。遊ぶのは二の次だからだ。どうせ誰も自分とは遊んではくれない。声を掛けて仲間に加えてくれるのは、シカマルとキバとチョウジの三人くらいだ。後は誰一人とてナルトに「遊ぼう」とは声をかけてはくれない。
「一緒に遊ぼう」と声を掛け一度は遊んでくれるも、もう次はない。そんなのは慣れっこで承知。
それでも一人きりの部屋に籠もっているよりは全然気分が晴れたのだった。否が応でも感じてしまう“孤独”を味わうよりも良いと…――

特に今日は余計に独りだと感じたくはなかった。あの嫌な時間が来ても、兎に角独りでは居たくなかった。“誰か”をと言うよりカコつけて、己の存在感を認識したかったのである。

この道を通れば必ず決まった場所に佇み座る級友。この少年も毎日のように此処へやって来るのはナルトと同じような気持ちだからだろうか。解らないが恐らくそうだと決め付け、いつかは声を掛けてみたいが侭ならず。ナルトは今日もその背中を素通りする。
いつもよりも強く、その少年を意識しながら、同じ環境の者が居るという事に安堵しながら……――


そうしてやって来た公園。見渡すとクラスメイトの何人かが徒等を組み、楽しそうに滑り台で鬼ごっこらしき事をしているが、どうだろうか。期待を込めてチラリと見やる。

「おい、ナルトだ。どうする?入れてやっか?」
「別にいいけど、でも母ちゃんや父ちゃんが遊ぶなって言うかんな…」
「あ、オレもソレ言われた!」
「オレもオレも!遊んだら、夕飯抜きって。」
「じゃあいいよな?」
「うん、コッチ見てっけど無視しよーぜ!」
「おう、ナルトには悪いけど、そーしよう。」

「………。」

耳にした会話から諦めて、ふと砂場で遊ぶ小さな子共達を見れば、それを見守る母親達の冷たい視線が今度は突き刺さる。

…何故、
自分が大人達から、こんな冷たい眼で見られ、忌み嫌われるのか…――

幼いナルトは知る由もなく。ただただ誰とも視線を合わさないようにして陽がくれる迄、一人ブランコを漕いだ。
慣れっこだと言い聞かせ、それでもあの部屋に居るよりはマシと赤く染まる夕焼け空を蹴るようにして。“アイツ”が居るから大丈夫、“アイツ”もこんな日は、オレと同じだ…と強く強く念じて。


夕飯の支度をする時間になったのか、小さな子共達はそれぞれの母親に手を引かれ、家路へ向かい。帰宅を知らせる母親の声に振り返り、次々と去って行く、クラスメイトの背を見送り、“辛い”と感じる時を緩やかとなった揺れに委せて伏し目にし、靴の裏で土を擦りて遣り過ごす。

解っていた。
解り切っていた。

しかし、その反面“もしかしたら”と期待をしていた。

もし
キバが居たなら、今日は何の日か知らせたら、赤丸に与えるハズのジャーキーをくれたかも知れない。
もし、シカマルが今日の日を知ったら、めんどくさがりながらも鹿煎餅の一枚くらいはくれただろうか。

もし、チョウジが知っていてくれたら、ポテチの一枚でも分けてくれただろう…と。

去年の事を思い返せば、そんな空想じみた期待もしなかったろうに……。

「何、バカみてーな夢みちまっただろ…」

情けなくて寂しくて、仕方なかった。
余計に“孤独”を感じてしまった。
小さな期待よりも現実を理解しておけば良かった。
悔しさと己の認識の甘さに遣る瀬なくと唇を噛み締め、苦い物を飲み込んだ。

「こんなん、わかってたクセにオレってば……、マジでバカ過ぎるってばよ。」
戒めの言葉を吐けば、余計に込み上がりポタポタと足元に雫を零した。


その時だった。

ザッザと砂利を蹴る足音が聴こえて来たのは。

誰かと思い、水線痕が残る顔を上げると、一度も此の公園に姿を見せなかった少年が視線を合わす事なく目の前を通り過ぎて行く。

何処へ行くのかと思いきや、ぬかるみ残る砂場に佇み、腰を降ろした。

丸まった背中は無言で何かをしてるようだ。

こんな所で柄にもなく、せっせと両手を動かす少年にナルトは釘付けになるも、どうしてか声を掛ける事が出来ず。ブランコの揺れを足で止めたまま、瞳を丸くと瞠らせるばかりで。その場に固まったようになってしまっていた。

間もなくと会話を交わした事すらない、級友が両手を払って立ち上がり。

ズボンのポケットに、その手を忍ばせ。意識したかに視線を外方へと逸らしてナルトの前を素通りして行けば、砂場に残された円筒なる物の平面に何本かの枝が刺さり、その先でパチパチと揺らめかす橙色の“何か”がナルトの瞳に照らされた。

「アイツってば、何作ってたんだろ?」

首を傾げて家紋を背負う背中を見送り、興味津々とブランコを降りて其処へと寄る。

「まさか、十歳にもなって火遊びしてたとか?」

(そうだとしたら、優等生のクセがって、かなり危ない一面を秘めてるってコトだってばよ。勝手にライバルって決めつけてたけど、ヤメヤメ、やーめた!!
そうだ!明日みんなに言いふらしてやろうっと!そうすりゃ、アイツのコトかっこいいって騒いでる女の子たちだってアイツを軽蔑するかもだし、イルカ先生にもコテンパンに怒られっかも…。)

「キッシシ…、そうなりゃ、くノ一クラスの女の子達も事件を未然に防いだオレのコト、かっこいいって注目してくれたり!」

そんな邪な気持ちの反面、そうは言っても何処か憧れなるライバルを失いたくはなかった。
なので一度は見過ごしてやり、此を切っ掛けに声を掛けてみようか…等との憶測のみな思考をアレコレと展開させて砂場に足を踏み入れる。

「!!?」

丸型に象られた湿った濃色の砂面上には、誰にも知らせられずにいた文字が綴られ。

「…コレってば、もしかして、もしかすっと!!」

本日迎えた歳だけ突き刺ささる小枝の先端は、茜空に似た色を瞬かせ、その意味合いを主張していた。

「………――、何だよ、寄りによって何でアイツが知ってんだよ。オレの………をよ。」

蝋燭に見立てられた小枝の先を勢い良く吹き消す。
すると何処からかパチパチと手を叩く音がした。


「砂、食えってか?」

「………。」

「ちょっとだけだけどな、お前の思惑どおり食ってやらァ!!」

側面の砂を一摘みして、ジャリッとを齧る。

「!!?」

「うェ!マッジィ〜!!」

そうは言っても吐き出さずにゴクっと下す。

「マズくてマズくて、涙が出らァ…。チクショー…」

溢れる涙をゴシゴシと拳で拭うも後から後から、流れ出て袖が濡れる。
ヒクヒクとしゃくれる息を一旦止めて唇を噛み締め、夕陽へと顔を向ける。つい先ほど拍手の音がした方向に背中を向ける為。そして息をスゥーーと大きく吸い込み。

「サスケェ!お前ん時にもなァ、おんなじコトしてやっから、覚えてやがれェー!!」

「フッ……。」

木霊を招く叫び声で夕陽へと言付け。

砂場に座り込んだまま、砂で型取ったケーキを見詰めていた。

完全に陽が暮れようと構わずに、いつまでも、いつまでも。
何処かに隠れてる少年を見つけようとはせずに……――



誕生日
おめでとう
ナ ル ト

そう綴られた小さな文字を…――





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