うちのこ※うちはさん兄弟
乳母を申し出たミコトの意により、うちは家の一員となったナルトが初めて迎えた夏。
1歳を過ぎたサスケはヨチヨチと歩き回り、生後8ヶ月を迎えたナルトはつかまり立ちが出来るようになっていた。
一緒に寝ている通常より広いベビーベッドさえ、現在となっては狭く感じるほど体も成長した二人。
そんな二人を午後から行水させようと、簡易に猛暑が予測できる雲高い朝空の下、水を張った大きな盥(たらい)が用意される。
朝早くからアカデミー高学年に混じって夏期講習に出席したイタチが「ただいま」と玄関を開けたのは真昼の陽射し強い時分。
敷居を跨げば、きゃっきゃっと楽しそうに騒ぐ声が庭から聴こえてきた。
「おかえりなさい。暑かったでしょ?
イタチもこの子達と一緒に水浴びしなさい。」
「うん。」
イタチははにかみながら頷き、荷を降ろしに二階へ上がると行水の支度を済ませ、庭で水撒きをする母の傍らに置いてある盥(たらい)に足を浸す。
「悪いけど母さんアッチの庭木にも水を撒きたいから少しだけ二人を見ててね。」
「はい。」
玩具を持った二人が真ん丸な瞳で水に腰浸けるイタチを見つめてる。
「にィ…」
「に!」
控え目な笑顔を向けるサスケとは対象的に、嬉色のままににぱっと笑うナルトはハッハ…と短い呼吸を弾ませながらバシャバシャと両手で水を叩き散らしイタチを歓迎した。
「…ふ、…ぅえッ‥」
イタチに会えて微笑んだのも束の間、止まる事ないナルトの激しい動作によりに、水しぶきを顔に浴び続けていたサスケが、うぐうぐと泣き出す。
「待ってて、今拭いてあげるから…」
イタチは急いで盥を跨ぎ、居間に上がって、そこに畳み置いてある洗濯済みのタオルへと手を伸ばした。
その刹那、小さな泣き声に混じってゴンとした鈍い音と一段と水弾く大きな音が響く。
「びィぇえええーーッ!?」
「!?」
イタチよりも逸早く振り向いたミコトは、瞬時に水面で引っ繰り返ってジタバタ泣き喚くナルトを抱き上げた。
「えぐっ…、ふぐ」
どうやらナルトはイタチを後追いしようと立ち上がった時に足を滑らせた模様。
ビックリして泣き止まったサスケは心配そうな顔で背中を撫で叩かれてるナルトを小さな口を開け見上げている。
「目を離しちゃダメでしょ!」
「…でもナルトがサスケに」
「言い訳はしないの!」
「…はい。」
ヨシヨシとナルトの頭を撫でる母にタオルを渡して、サスケの濡れた顔を乾いた掌で拭うイタチは唇をぐっと噛み締め、母に一言、タオルを取りに行くから…と声かければ良かったと胸の中で呟いた。僅かな水量でも場合によって溺死してしまう恐れがあると認識していたからこその省みである。
それに対して慰めるようにサスケが微笑む。
「にィに、…ぶ?」
小首を傾げて立ち上がっては、小さな手をピタピタとイタチの頬寄せつける。
「大丈夫だよ、サスケ。」
悄げた自分を和ませた湿った小さな頭を愛情のままに撫でれば、今度は安心したかに嬉しげな笑顔が放たれた。
イタチも愛らしいとサスケに微笑んでいる。
そんな二人を指啣えて見ていたナルトが手を広げ、自分も仲間に入れて欲しいとせがむようにミコトの腕から身を乗り出した。
「にィ!にィ!」
「ナ、…トォ」
おいでとナルトに手を伸ばすサスケは勿論、ナルトもイタチとサスケが大好きで、イタチも二人が大好きだ。
だからこそ、なるべく沢山三人で遊ばせてやりたいとミコトは願う。
来年の夏には見られない光景と知っているから。
「うふふ…」
「!?な、なに?」
微笑む母の手によりイタチの頭にホースの水が注がれるとイタチはビクッと肩を跳ね上げた。
「お仕置きよ。冷たくて気持ちイイでしょ?」
「……――うん、母上。」
「も!、サッケ、…もッ!」
「マ…!?」
楽しそうなイタチの顔を見て自分達にもして欲しいとせがむ二人。
「はいはい、アンタ達もね。」
ぞうの形をした如雨露(じょうろ)から日溜まりた水が流れ落ちる。
「メったィ!」
「きゃうぅ〜!!」
“みんな一緒で笑顔がいい”と言葉なくても訴える瞳が夏の太陽の袂でキラキラと輝いていた。
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