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Kiss me



寝床へと身を就かせ、眠気を催すまで続くだろうナルトのお喋りに耳を傾けつつ、書物へと目通しをしていたサスケは隣から響く朗らかな声が大きな欠伸に変わるよりも早くその紙面をパタリと綴ざした。

「たまにはお前からしろ。」

主旨を省いた低声な命令口調に眠気宿した瞳が大きく丸くと見開かれる。
継いで横やりな黒い眼差しに瞬きを繰り返して問い翳す。

「へ?、何を?」

まるっきり解らないとする青色の眼差しに対し、サスケは口を噤みて双眸を狭め、大きな丸珠の色濃い中心に己の懇願を訴えかけるよう、ただただ見つめ続けた。


暫し訪れる寡黙。

小首を傾げ考え倦ねていたナルトがサスケの視線を漸く読み取り力強くと一つ頷いた。

「分かったってばよ。」

告げればにこやかな笑顔を向ける。
そんなナルトに期待してサスケの口端が持ち上がる。
ポンと肩に乗った片手にも疎通の意が感じられて。


「ここんとこずっとオレってば寝坊して朝ゴハンサスケに任せっきりで全然だったかんな!明日はオレが張り切って特製カップラーメンを作ってやっからさ。だからお前はたまにはゆーっくり安心して朝寝坊でもしてみろってばよ!」

「………。」

「ってコトで、おやすみィ〜!!」


コロリと背を向け布団に丸めた体を潜らせるナルトは見事にサスケの期待を裏切った。


「待て、ナルト。」

「おう、火遁は寝て待つってばよ!」

「そうじゃねェだろ…」

「アレ?風遁だったけ?」

「…それも違うが根本的にそうじゃない。」

「ああ゙? 何がどうちげーってんだよ!?」

「それは……考えたら解るだろ?」

「お前がしろっつった事、よーく考えてわかったから明日は早起きするっつったんだ! なのにちげーっつーから、だから何がちげーんだって訊いたんだろが!!」

ナルトはクルリと身を向き直し苛立ちに染まった表情をサスケにぶつけている。

サスケは眉一つ歪ませる事なく溜息を一つ漏らしてから悠然とナルトを見つめ、僅かに視線を逸らして口端を持ち上げた。
眠気は何処へやらとした怒り顔も愛好に値すると……

「なーにニヤニヤしてんだぁ?」

「別に。」

「人の事、おちょくってるみてーに笑ってんじゃねェ!!」


咄嗟にサスケの懐を掴み、怒気を露わに此方を視ろと睨みを効かせた。小馬鹿にされたとの見解からの言動だとサスケは理解する。

「誤解するな、ナルト。」

「じゃあちゃんと言えよ!!何が誤解で何がちげーっつーのかをよ!?」

興奮気味のナルトを宥めるように彼の頬へ両手を携え、落ち着き払った眼差しを重ねてみると、戸惑いがちに金糸の眉が下がった。

「…俺がしろと言ったのはな、朝から晩まで毎日俺がお前にしてるコトだ…」

「朝から晩までサスケがオレに?」


「…ああ。」

「う〜ん、何だろ?」

解り易いだろうと投じた詞に返って来たのは思い当たらないと首傾げ唸る仕草。
そんなナルトが愛らしいと思うサスケは答えが出るのを静かに見守ると同時、今にでも己からしてしまいそうな行動を抑制しながら切望していた。

「も、もしかして、もしかしたら、その朝から晩までってーのは、そのォ――…」

「漸く解ってくれたようだな…」

「お前みてーにすんのは無理だってばッ!」

赤らみつく頬は照れているからに違いないと読み取ったサスケはナルトの尖った唇へと少し顔を寄せ、フッ…と挑発的な笑みを唇に纏い。伝わらないだろう胸内を高鳴らせる。

「恥ずかしいなら軽くでも構わないぜ?」
「軽くでも無理だってばよ!」

「いいじゃねーか。たまには……、なあナルト。」

「たまにだろーが何だろーがオレはお前みてーな変態と違ェから無理なんだって!…ヘンな妄想とかして朝から晩までニヤニヤすんのはよッ!!」

「確かにお前への愛からなる妄想はするが要求したのはそうじゃない…」

「じゃあ何だよ!!」

「いい加減解りやがれ。このウスラトンカチめ。」

「ウスラトンカチって言うなァーーッ!!」

「夜中に馬鹿デカイ声を出すんじゃねーよ、ドべ。」

「うっせー、うっせー!! サスケなんか変態セクハラ妄想野郎でカッコつけたがりの復讐者のクセしやがって!悔しかったら、ちったァ空気読めってんだ!?」

「空気読めねーのはお前の方だろが。」

「なにィ〜!!オレはお前よか全然、周りの連中に馴染んでんぞ!」

「お前は誰にでも気軽に接するからな。だが空気は俺よりお前の方が読めていない。現に今だってそうじゃねーか…」

「写輪眼あっからって威張ってんじゃねェー!」

「お前こそいい気になってんじゃねーぞ。」

「サスケェー!!」

「ナルトォ!」


こうして真夜中に伴侶の名を呼び叫ぶなんて互いに思いも依らなかっただろう。
甘い夜の帷(とばり)が下される事を望み、多いなる期待を抱いたサスケは特にだ。


「もういい。勝手にしろ…」

フンと視線を逸らし吐き捨てた詞を残して、寝床に就いたサスケは不機嫌露わにそのままナルトへ背中を向けた。

「わかった、そんじゃオメーのお望みどーり、勝手にしてやるってばよ!!」

息巻き乱雑に布団をバサッと捲り、ナルトが隣に潜り込む。
その後、苛立ちを消沈させるように溢れた溜息が目蓋を閉ざしたサスケの背中に伝わり続くが、ナルトの体温が暖かさを増した頃には、それが規則性を保つものへと変わっていた。

握り結んだ手がサスケの背中をポコンと叩く。

振り返れば至近に無防備な寝顔を晒すナルトが映り、サスケの顔も穏やかさを宿す。

些細な望みさえ叶わなかったが、どんな喧嘩をしても決まり事のように最後はこうしてベッドを共有し眠り就き、朝になったら何事もなくな顔を互いにする……

いつの間にか二人の間に出来た不思議な習慣。

これに平穏を感じて目を細めれば、起こさないようにと配慮した腕が伸び、ナルトを柔らかくと包み込んだ。

己より高めな体温が愛おしいと更に抱き寄せる。

安息感に見舞われて訪れた微睡みは、簡単にサスケを深い眠りへと追いやった。












「サスケ、おはよ。」

朝陽に照る金糸を光らせ、俯せた身のままに枕上で肘付き、ニッと笑うナルトが、開きかけた黒眼に映る。


「…ああ。」


ぶっきらぼうに答えたサスケは眠気に覆われた身体をナルトと同じくな俯せに変え。起き上がらなければ…と枕を抱えるようにして少しだけ身を押し上げた。
その刹那に柔らかな唇が横顔に届く。

「これで…いい?」

ハッと重たげな瞼が瞬時に持ち上がると、頬に紅を注がせ、はにかみ見せる碧瞳が、昨夜の要望を知り試みたものだと黒い眼差しを窺っていた。


「俺のようにしろ。」

「ぅ、……うん。じゃあさ、そのォ…――目ェ、瞑ってくんねーかな? オレも一緒に瞑っとくからさ。」

「ああ…」


同意した途端、ナルトよりも先にサスケは目蓋を閉じ、ナルトの唇を待つ。

けれども己の好奇心に揺るぎ、隠した黒眼を覗かせてしまう。

ギュッと力入れ閉じた目蓋と同様、緊張感漂う唇。

それが段々と己に迫りゆく……

至近つく吐息やその表情に胸が高鳴る。

(こんな表情でするんだな、ナルトの奴…)

「んッ…、 はい、オシマイ!」


ナルトからの口付けは想定通りの短いものであったがしかし、得たものは多いとしてサスケはこれに深く感動した。

“今日だけは…”と毎朝磨く歯も磨かず。お湯を入れて三分待つだけで出来る特製味噌ラーメンの匂いを口内に漂わせ、ナルトからのキスの余韻に一日中浸っていたという。







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