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CARNATION

里の繁華街に買い物に出るとアチコチの店で「今日は母ちゃんの日」だって紙がペタペタ貼ってあった。


母ちゃんの日にはカーネーションをプレゼントするんだって。


オレは……──

オレの母ちゃんを知らない。


写真も見たコトねーし。実際に顔も見たコトねーし、ドコの誰かも
名前も知らない。


わかってんのは
“うずまき”って名字だけ。





サスケにも現在は母ちゃんはいない

でも
死んじまったサスケの母ちゃんの姿は見たことあるし名前も知ってる。

サスケの口から
アカデミーの参観日や写真で……。



優しそうでキレーな
母ちゃん。


サスケに目元とか似てる。
イタチのが母ちゃん似てっかも知んねーけど

サスケの母ちゃんにはゴルゴ線みてーな皺ねーから、よかったなって思う。


サスケが優しいのは
きっと、優しい母ちゃんに育てられたからだってコトも思う。


サスケを産んで育てくれた母ちゃん…──。

行き先は言わねーで
出かけちまったサスケの代わりに
いのン家よって花でも買ってこよう…


うん!
そんで墓に供ええてやっか!


そう決めて
いのん家へ向かう。


途中で甘栗甘で団子も買って、それも供えてやるんだ。
サスケの父ちゃんと仲良く食えってな風に!


オレは
テメーの素姓も知らねー母ちゃんをサスケの母ちゃんに重ねつつ
想いを描いていた。





山中生花堂




いのの家族が切り盛りしてる、この里
唯一の花屋さん。


「よぉッ!」


声をかけると束ねた金色の長い髪を
なびかせて振り向いた、サクラちゃんのライバル。
ニッと歯を並べ笑ってから尋ねた。

「カーネルショーだっけ、それくんねーか?」

「カーネルショー?
何よ、それ。フライドチキンが美味しいお店のおじいちゃんがショーでも開きそうな名前の花なんて生憎うちには置いてないけどぉ?」

腕を組んで顔を覗き込む、いのはわかっていながらな感じでそう言って唇の端っこを持ち上げて笑ってた。


「母ちゃんにあげる花、そんな名前のあっただろッ!」

「ああ、カーネーションね?それならそうと早く言いなさいよねー!」

「ちぇッ、‥わかってるクセによ…」

「なに!?、何か言ったァ?」

「べっつにィ、何でもねーってばよ‥」


「あんたんトコは白いのでいいわよね?」


白く咲いた薔薇の花みてーな花を何本か手に持ちながら、いのが訊いた。

「何で、白なんだ?
母ちゃんにあげる花って赤じゃねーんか?」

「だって、あんた
お母さんいないじゃない。」



いのの話によると
母ちゃんがいねーヤツは白いカーネーションを
母ちゃんがいるヤツは赤いカーネーションを
『母ちゃん、ありがとう』

ってな意味を込めて
贈るんだと。


確かに
オレには母ちゃんがいない
サスケにも…‥





オレの母ちゃん




見たコトも会ったコトもねーけど


ぜってー、一回は会ってんだって思う…。


産んでくれた時……
オレは覚えちゃねーけど、そん時はオレを見て抱っこしてくれたんだろーなって…‥



記憶はねーけど


絶対ェに、そう…思うんだ。



母ちゃんが現在は
そばにいねーだけなんだ……

オレもサスケも…──



「赤が欲しいんだけど…、ちっとでもいいからさ。」


「白の方がいいわよ。死んでしまったお母さんには白いカーネーションを贈った方がいいわ。サスケ君もさっき買ってたんだからァ、白いカーネーションをね。」


「‥サスケが、来たんか?」


「そぉーよ、そぉ!
お母さんの墓に飾るのにってね。だから、白いカーネーションを花束にしてあげたのよねぇ〜。
サスケ君には特別サービスで、カスミ草とかァおまけして〜可愛いらしくコーディネートしてェあげたんだけどぉ〜‥。あッ!、あんたはダメよ!あれはね、サスケ君だけへの特別サービスなんだからぁ〜。サスケ君には、まけてあげたけど。花代だってい〜いィ?ナルト、あんたになんて、ビタ一文だってまけあげないんだからねッ!」



サスケが
行き先を明確にしねーで一人で出かけたんは…



「―――‥なっ、何よ、どうしたのよ?、さっきから下向いて黙りこくってェ。やーねぇ、‥アンタらしくないわよ?」


そっか
そう、――‥だったんか。



「……あ…、あたしばっか喋っちゃって、何だかバッカみたいじゃないッ。
ちょっとぉ、何とか言いなさいよ!━━‥もうっ。」


最初から
家族のいないオレに

母ちゃんがいないオレに今日が何の日か‥
気づかなくていいように……なんだな。



「……オレだって、母ちゃん、いんだよ。」

「………え?」


「誰だって父ちゃんがいて母ちゃんがいて‥そんで、産まれてくるんだ…」



どんなカタチであろーが、この世に産まれて来これたってコトは……

母ちゃんがいる、

母ちゃんがいた、

家族があるって、
居たってな、
証じゃねーか。


時間は短かったかもだけど
ちゃんと家族の時間がこの世にあったんだ…

だから
産まれてこれた。

だから
現在のオレがいる…


最初からって……
いつからなんだよ?


一人だけど
独りじゃなかったじゃんか。


誰かの存在を
いつも感じてただろ?


オレだけじゃねー…って気ィついて、お前だけじゃねーって伝えたくて、また一つ何かに気ィついて、伝えようと…を繰り返す。


オレはいつだって自問自答するみてーに、誰かに思ったコトを叫び、そうしながらテメーにも言い聞かせていた。




そして
今、あるコトに気がつく。


「オレの母ちゃんは死んだって聞かされていない…。父ちゃんだって、死んだとか聞いちゃいねェ‥。」


何も訊いてねーから‥

ずっと一人だったから

『死んだ』って決め付けてた…


「な、何?なにブツブツ言ってんのよ、アンタ。」



もしかしたら

同じこの里に住んでねーだけかも知れない。
どっか別の国とか、…違う場所で何かの事情があって、素姓を隠して離れ離れで暮らさなきゃで…
そんで、ただそーしてるだけかも知れない…


忍としての何かの目的のタメに……━━


きっと……





「……赤、くれよ。
オレは赤が欲しいんだ。」



オレの母ちゃんは生きてる…



「わ、わかったわよ。それでどれくらい包めばいいの?」


「赤を二本。一本ずつ分けて包んでくんねーか。」

いのは
慣れた手つきで大きな一輪の赤いカーネーションをセロハン紙に包みリボンをかけて装飾したものを二つ、オレに渡した。


「ありがとう御座いましたァ〜。」


一人で店番に出てた
いの。
きっと母ちゃんを休ませたくて今日は……
何て思いながら店を出て走る。


サスケが居ると思われる墓に出向く、走って‥、走って‥。





いのが言ってたコトは本当だった。
うちはの墓場の一角にしゃがんだサスケの後姿が垣間見え、ゆっくりと歩いてうちはの家紋を背負った背中に近付いた。


「………お前、何で来た?」

怪訝そうにした顔で振り向いたサスケは墓に白いカーネーションを供えていた。

「走ってきた!」

「……そうじゃねェよ、バカ。」

「何だと!バカって言うな!バカってよ!」
「なるほどな‥、あのお喋り女め…」

片手に持った花を見てチィ‥と舌打ち
罰の悪そうに両目を眇めたサスケに一本の赤いカーネーションの花先を差し向ける。


「これ、お前の母ちゃんの分…」


「…??…何故、赤なんだよ?」

「サスケも母ちゃん居んだろ?、ココんとこにさ。」

左胸を示すように差し向けた花。
理解したように黒い瞳を伏せ唇を噛み締めた。
サスケとは対照的に微笑むオレとの合間に
爽やかな季節の風が
そよいだ。


「団子も買ってきたから、一緒に供えていっか?」


「団子は良いが花は駄目だ…」

「何で?」

「俺が持つ…」


白いカーネーションに飾られた墓へ団子を供え、線香の薫りを匂わせ…

手を合わせてから
真っ直ぐに立ち昇る白く薄い煙の行方を追うように青い空を見上げた。



片手に持った赤いカーネーションの花びらを掲げるように蒼穹に向けて……


『母ちゃん、ありがとう。』


心の中で
空の向こう側にも
届くような大きな声を張り上げた。
声は出さねーで。


雲の上にいる
サスケの母ちゃんに‥

空の下にいるだろう
オレの母ちゃんに‥














Inoside world




「ここもなんだけど‥忍の里って、母の日に売れるカーネーションは白い色のが多いのよねー‥。」


それだけ沢山の人達が大切な人を失ってるってコトかしら…

あたしのお母さんは元気でよかった‥。
それだけで有り難いかもね。


「だから赤を欲しがったアイツに特別、高いカーネーションを渡しちゃった。こっちのサービス品の値段で!」

ナルトのお母さんのコト、夕飯食べながらでも聞いてみようかしらね?

多分、
何も話しちゃくれないだろーけどォ。



「やーねェ、あたしったら何サービスしちゃってんのかしら!
サスケ君、以外にィ」

あいつは気がついて
ないけれど
凄くサービスしたんだから!


「今日だけなんだから。もうしないわ、二度とね。」

独り言をいいながら
サービス用の花束を作っていた。

赤と白と別々に‥


「なぁに独りで、ぶつぶつ言ってんのよ。」

「あーら、デコリンちゃん、いらっしゃァい!」

「何よ、デコリンって!このいのブタァ!」

「ブタで結構だわ〜、お客様ァ」

サクラは
赤いカーネーション
を買うのよね。

キバもシカマルも
チョウジも…


サスケ君は来年、
ナルトに感化されて赤いカーネーションを買うのかしら?


何だか
ちょっぴり悔しいけど

でも……



白いカーネーションより赤いカーネーションが売れるのは嬉しいの。






母の日だけに
取り巻く花屋の娘
の持つ感傷…






カーネーションの
花言葉は『感謝』


白は『私の愛は生きている』


赤は『母への愛‥』
『熱愛』



「今度サスケくんに『熱愛』を贈ろうかしら。ナルトに先を越された感じがするけどね〜。」


「何よ?サスケくんに何を贈るって?」


「なーんでもないわよ〜、デコリンちゃん!あんたには黄色いカーネーションを特別にサービスしてあげるわ。」

「…ありがとう。どういう風の吹き回しよ。私に花を贈ってくれるなんて…」


「あら、知らないの?黄色いカーネーションは『軽蔑』って意味があるのよ〜」

目の前のサクラを
からかいながら
花に託した想いを
贈るナルトの姿を思い浮かべていた。


<おしまい>


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