俺様の同情
「博士ぇー!!!」
ばったーん。扉を蹴破る勢いで研究室とやらに飛び込むヒジリ。
こいつほんと限度とかそういうの考えないよな…。呆れながらそいつの後に続いて入る。
ばたばたと奥の方にいる男たちの方へ進むと、白衣を着た男が驚いたような表情をしており、もう一人は怪訝そうにヒジリを見た。
「なんだねキミは?
今ポケモン盗難事件の取り調べ中なのだが……」
盗難事件。ということはボールを盗られたということか。
かわいそうになあ。軽くそのボールに同情しながら隣にいるヒジリを見やる。
まだ息が整っていないらしくはあはあと膝に手をついて汗をぬぐっている。
「捜査の法則その1「犯人は現場にもどる」
ということはまさか!キミが!
は ん に ん ! ? 」
ぼそぼそと何かつぶやいた奴が驚愕の表情でびしっとヒジリを指さした。
それにぽかんとした。んなわけないだろ。
ちらりと名前を見上げるとこちらもすこしグレーの目をきょとんとさせた。しかしすぐに笑みを作り上げ、
「はあ?」
恐ろしくドスのきいたの言葉を吐き出す。これには冷や汗をかいた。
やべえこいつマジで盗ったんじゃねーのか??
犯人かと言った男すらも戦いている。ありえんコイツ最恐なんじゃね
ハスはなにかわからずに「ねえねえ何かあったの?」なんて無邪気に聞いてくる。こいつの馬鹿さが羨ましい。
黒い笑みのまま男に詰め寄ろうとしたヒジリに、先ほどと同じように扉が壊れそうな大きな音が響いた。
キャップを逆に被り、足元にマリルをつれているガキ。たしかヒビキといっていたやつ。
たたた、とこっちに一気に走ってくると男の前に、ヒジリを護るように立ちふさがった。
「ちょっと待ってよ!この子は関係ありません!
僕見たんです。真っ赤な髪の男の子がここをのぞいているのを!!」
「ヒビキ…」
怒るようにそういうのだからひるみまくる男。
ちょっと待てヒビキとかいうガキ、さっきまでの状況しらねーからそういう態度とれるけどな……。
その男に本日2回目の同情。俺様人間に同情する日がくるとは思ってなかった
「ヒジリちゃん大丈夫だったの?」
「いや全然大丈夫だ。むしろあっちが大丈夫か」
「???」
隣から話しかけてくるマリルに返しながらヒジリたちのやり取りを見る。
誤解が解けて、今名前を聞いているらしい。
強盗犯って、多分あのヒジリにさんざんにやられたあの赤い髪のやつだよな。ヒビキも言ってたし
しばらくすると意気揚々と男が出て行った。
まあ二度とコイツにかかわらないようにしろよ。重々承知してるだろうが。
「ヒジリ、疑いがはれてよかったね!」
「うん、ありがとうヒビキ…」
「ううん、いいよ。じゃあまたあとで!
マリル行くよ!」
ほっとした表情で言うヒジリに満更でもなさそうに応え、マリルをつれて出て行ったヒビキ。
……お前、絶対こいつに騙されてる。ほんとに。
「ヒジリちゃん……大変な目にあったよ」
「奇遇ですね博士、私も今さっきあいました」
「いやむしろアイツだろ大変な目にあったのは」
しらっとした顔で便乗するヒジリを咎めようが聞こえないフリをされた。お前マジあとで噛みつくぞ
「あっそうそう。ポケモンじいさん大発見ってなんだったの?」
「あーはい、これです」
肩から下げていたバッグを探り出すと、タオルに包まれた何かを出した。
………んだこれ。俺と同じ心境らしく、きょとんとした顔の白衣を着た男。
「うん、なんだい?これはタマゴ……だよね?
確かにこれは見たことない種類のもののようだけど……。」
「えんじゅ?っていうところからの知り合いから譲り受けたって言ってました」
「今どきポケモンのタマゴで驚くなんてポケモンじいさんも相変わらずだなあ……
でも……せっかくのタマゴだし、もしかしたら何か秘密があるのかもしれないね
よし!
しばらく僕の方であずかって調べてみるよー」
「はーい」
ポケモンのタマゴか。んな繊細なもんコイツにあずけといてよく無事だったよな
…………いや、ちょ、なんで睨んでんだヒジリ、え、心の声漏れてんのか怖ェ!!
「ヒジリ顔怖い」
「お、おいほらハスも怖がってんぞ!!」
「……。」
俺様よりでかいくせして後ろに隠れるハスを利用してヒジリに言えばじろりと見下される。
そのまま数秒。視線を俺たちからはずしたヒジリに安堵した。そのまま男と話し始めるヒジリ。
「ヒジリ、どうしちゃったの?」
「いや、今機嫌悪いだけだろ。そのうち元に戻る」
「え?なんで機嫌悪いの?」
「お前さっきの一部始終見てたのか?」
「うん!」
「……そうか」
初めに会った時から変わらぬ元気さで答えるハス。こいつの性格無邪気だわな。
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サク目線。続きます!
サクにはあえて触れてない博士。…都合がよすぎる?
