隣町までのこの距離



「じゃあ行ってきまーす!!」

「気をつけてね」

サクとハスをひきつれて、にっこり笑顔のお母さんに見送られて草むらのある29番道路に踏み出そうとすると、


目に入った赤い色に足が止まった。


「どうしたヒジリ?」

「いや、あの子…」

とまった私に反応して見上げてくるサクとハス。指を指せばそちらに目を向けた
ウツギ博士の研究所の窓に張り付いてぶつぶつと何か言っている赤い髪の少年。すっごい嫌な感じが……。


まあいっか!
「私しーらない!さあレッツゴー!」

「かなり無責任だぞそれ」
「わにゃ?」

何か言ってるサクは無視。ほらハスを見なさい!何も言わないでしょう!
次こそ29番道路に踏み出そうと片足をあげると

「おおーい!」

チッ!誰だ邪魔しやがって!知らないやつなら殴る←
険悪な表情で振り返ればウツギ博士。一瞬びくっとされた。
……うん、誤魔化そう。すぐさま無邪気な笑みを浮かべて首をかしげる

「ウツギ博士なあに?」

「い、いやー忘れるところだった!君に僕の電話番号を教えておくよ
何かあったら電話するからよろしくね!」

ウツギ博士のスルースキルもなかなかですね!
ありがとうございますとお礼を言ってからたったかと逃げる。
博士すいませんでした!今すぐ忘れて!ムリ?ですよね!


「うわああんハス行くわよ!」
「わにゃあ!」

「いきなりヤケクソかよ…これから先大丈夫か?」


ざくざくざくと進んでいくとがさっと隣から音がして


ポッポが飛び出してきた。


ぽっぽっぽとかわいらしく鳴きながらぱたぱたと翼をはばたかせる。…か、かわ!!


「ふあああ…ポッポかわい「わにゃあ!」


ざっくーん。ハスのかわいらしい手の鋭い爪がポッポにずさーん。
弱肉強食ですか分かります!いやわかってないけどな!


「ぽっぽー!!!!うああああぽっぽー!」
「お前どうした」



「同舌も何もハスすごく用捨ないね!!」(※どうしたも何もハスすごく容赦ないね!!)


「お前なんか言葉おかしい」

この際知るか!



*****


「ふおーやっとついた…」

お隣り町のヨシノシティの一歩手前到着。
足元ではしゃぐハス。まだまだ体力ありそうだ。この子随分とたくましいなオイ!
まあ、一応ポケモンセンター行くかあ。と一歩踏み出した瞬間。
前からおじいさんがやってきた。ものすんごい速さで。
それから私の前でぴたりと止まり、ほっほっほと笑う

「おまえさん、新米トレーナーか?」

それを聞いてぱちくりと目を瞬かせるとなぜか嬉しそうに「図星じゃな!」と言う。
……え、この人誰だ…。

「よいよい、誰だってはじめてはある。
わしが色々と教えてやるから心配はいらん

さあわしについてこい!」

うんうんと一人うなずいて元気よく走るおじいさん。うおいなんだあの元気な老人!私に体力分けて頂戴!
しかしおじいさんはへろへろな私を見ると私のところまで戻ってきてくれて速さを合わせてくれた。おじいさん優しいわね!

ポケモンセンター、フレンドリィショップ、30番道路、海。
ご丁寧に順番に案内してくれると普通の家の前で止まった。ここはなんだろうと思うとおじいさんがほっほっほ、と笑った。

「ここはわしの家じゃ!ここまで来てくれたお礼にランニングシューズをやろう
わしのぬぎたてホカホカじゃ!

「……………………………。」

「…じょーだんじゃよ。新品だから安心せい」

ほい、と差し出されたのは確かに新しいシューズ。
けど、こんなものいただいていいんだろうか。どちらかというとこちらがお礼を言うはずなのに。

「あの、色々ありがとうございます。けどこれは…」

「なーに、わしの好意じゃ受け取ってくれい。

それともじじいの好意なんざ迷惑かの?」

「ええ!?あの、ちょ、違います…!い、頂きます!」

「ほっほっほ、それでよいんじゃ」

むう、なんか一杯くわされた感じがしてならぬ…。
じゃあ気を付けての、と一言告げると家に入ってしまった。
あばばばば、お礼言ってないんだけど……!!

「あっありがとう御座いました!」

扉開けるワケにも行かないので家に向かって叫びながらお辞儀をすると窓からおじいさんの姿が見えて、嬉しそうに笑っていた。
なんか急に恥ずかしくなったのでもう一度お辞儀してからポケモンセンターに走った。


「なんだ恋する乙女か」

「サク、一体そんな言葉どこで覚えたの」

ぽつりとつぶやいたサクの言葉にすっぱりと返しながらポケセンに入る。
自動ドアが開くと広い内へ。丁度人がいなかったのでジョーイさんのいる受付まで早歩き。
トレーナーカードを提示してからハスをボールに戻して渡した。その際にコラッタはどうしますか?と聞かれたが、あいにくこいつを入れるボールがないんですよジョーイさん!ちきしょう噛み砕きやがって…!
睨めどサクはどこ吹く風。お前ふざけんなし!さすがにジョーイさんの前で掴むこともできず。




「はい、どうぞ」

「ありがとうございます!」

にっこり笑顔で回復の終わったハスの入ったボールを差し出してくれたジョーイさんに同じく笑顔を返す。
えへへごめんなさい不細工で!近距離で見るとジョーイさんまじ美人さん!これなら惚れる。

受けとって両手で包んだ瞬間にボールが大きく揺れ、ハスが出てきた。
……うん、君ナチュラルに抱きついて自力でボールから出てきたというすごい事実を無視するのをやめようか。
これ何気にすごいと思うんだけど、え?普通?さいですか!

とりあえずお使いが先だとハスとサクを引き連れて、30番道路へ。
草むら一杯だなあと思いつつ薄い草を踏みしめようとすると引き留める声。これ、さっきまで聞いてた…


「はあ、はあ、はあ……
なんとか間にあった……!」

「おじいさん!大丈夫ですか!?」

そして相変わらずお速いですね!今さっきの声かなり遠かった気がするんですけど!!

「おまえさんにもうひとつお礼をするのを忘れとった。」

「いえもういいですよ!」

「なあにもらえるものはもらっとくもんじゃ!ほれ」

おじいさんが出したのは薄いカード。これなんだろうと思っているとポケギアを出しなさいと言われる。
言われるがままに出して渡すとポケギアにそれを差し込んだ。
しばらくして電子音が響くとほい、とおじいさんが返してくれた。何したんだろうとポケギアをつければ見覚えのないマップが。

「ちょ、おじいさ……!!」

「ほっほっほ!じゃあな!!」

引き留めようとするばすでに遅し。っていうかおじいさんが速すぎるだけだからね!何あの人今度からマッハじじいって呼びますよ!
とりあえず行き場のない感謝をどうすればいいんだろうと思いつつ、小さくありがとうございます、とだけ呟く。



「……やっぱ恋じゃね」「ごめんサクほんと誰から習った?」

なんとなくサクのほっぺをつねりながら草むらを進み、現れたポケモンをハスが楽しそうに一掃。
………何これ、ハス無双?ワニノコ無双?もうどっちでもいいやー!
それよりこの距離しか歩いてないのに疲れたぜ!なんでだ!




――――――――――――――――
おじいさんといるときハスとサクが空気すぎてワロタ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!