おろそい。







「……………………そう、冒険にでるのね」

悲しそうにつぶやくお母さん。
ついさっき、博士に言われたことを考えて、自分なりに出した答え。
ジムリーダーに挑戦する、それも経験。勝てるかなんかわからない。ましてやチャンピオンにまで挑めるかどうかなんか分かんない。
それでも、自分の人生なら楽しそうだ。ついでにサクも巻き込んだことだし、引き返すつもりはさらさらない。


「あの、お母さん…」
「……気をつけてね、ポケモンは大事な友達。力を合わせて頑張ればなんだってできるんだから!」


さ、行ってらっしゃい。そういってにっこり微笑む。
………うん。行こうとは思ってるんだけど…。その前にさあ


「ねえお母さん」

「?どうしたの?忘れ物でもあった?」

「ううん、違うけどさ」

おろされたままの茶髪を持ち上げて苦笑いした。
せっかく行ってらっしゃいって言ってくれたけどまだ、ちょっと


「最後に、ポニーテールにしてくれない?」

お願い、と手を合わせるとお母さんが驚いたような顔をした後に手招きした。へへーいやったー。





*****


「んなことしてもすぐおろすんだろ?せいぜい一日じゃねーか」

「そーいうこと言うからアンタはコラッタのままなのよ」

「んだとコラ」


お母さんにきちんと結んでもらったポニーテールを触りながら歩く。後ろからのサクの声がうるさいけど気にしない。
ハスはなんか気まずそうにしてたから今はボールの中。博士の研究の手伝い中だけど、これはちょっと勘弁してほしい。

ああ、そうだ最後に博士に行くって言っておこうか。
というわけでがっちゃんこ。

「博士ーお邪魔しまーす」

「オイ今日だけで何回目だよお前」

正解は三回目!!ふふふ、私だってこんなに出入りするとは思わなかったよ!しかもすべて別の用事。

「あ、ヒジリ!」

「ヒビキ」

扉を半開けの状態で振り返ればこっちに走ってくるヒビキ。足元にマリルがいてにこにことしたまま鳴いた
私の中途半端な体制を見てヒビキが研究室の扉を開けていることに疑問符を浮かべた。

「?ウツギ博士に用事?」

「うん、私旅に出ることにしたの」

「へ……!?」「るり?!」

かわいらしく首をかしげたヒビキにさらりと告げれば

さすがトレーナーとそのポケモン。息ピッタリだね!なんでそんな驚くのかな!

「え、あの、た、旅に出るの?」

「……うん、行きたいんだけど…」

「……ほんとに?」
「………ほんとに。」

最後の一言を聞いた瞬間に崩れ落ちたヒビキ。
なんでだああああ!!!ひどくないか!!何!?そんなに私が旅に出るのおかしい!?

「そ、そんな………こっちに戻ってこないの…?」

「し、しばらくは戻ってこれないと思うけど…?」

「うへあっ……うう」

なんかかわいいなヒビキ!ショックの受け方かわいいな!!
膝をついたままのヒビキにマリルが慰めるようにるりーと鳴く。…え、私悪いの?


「んだアレ」

「…よ、よくわからないんだけど…」

…どうすればいいんだろう………。

「…な、なんかない?」

なんで俺様に聞くんだよ
ま、アドバイスがないってわけじゃあねえがな」

「えっ」


ふふんと得意げそうに鼻をならしたサクを抱き上げてホールド。

「………なんで捕獲するわけ?」

「吐かせるためー(はあと)」

にっこりと微笑んで言った私に死刑宣告でも受けたかのようにげっそりするサク。
こらそんな顔しないのー。さあ言え、ヒビキをこのどんぞこから救う方法を!!



「…………あいつも旅に誘えばいいだけだろ」

「…………はあ…」

「じゃあお前言ってみろよ、あいつをどんぞこから救う方法を!!」
「アンタ私の心でも読んだのか!!」


ペッと投げ捨てると着地してからぎゃんぎゃん叫ばれる。うるさいなあと思ってからはっとする。
振り向いても膝をついたままのヒビキが目に入る。…よかった、会話聞かれてないよね…?
だってサクの言葉はヒビキには聞こえてなかったみたいだし、普通にサクと話してるの見られたらおかしく思われる。
………旅の途中も周り気にしなきゃいけないのか、面倒…。とこれは置いといてヒビキに近づく。




「ヒビキ」

「なに…ヒジリ…」

「(……すっごい沈みよう)

ねえ、ヒビキも一緒に旅に出ようよ!!」


「……………………………え?」

長い間をとってから呆けた声を出すヒビキに心の中でほらなああ!!と叫ぶ。
サクを睨めばどこ吹く風。てめええやるほうの身にもなれえええ!!!

私の心の葛藤は気にせず、きょとんとした顔のまま呟くヒビキ。

「……僕も一緒に旅に出るの?」

「うん!どう?あ、別に私のペースに合わせなくてもいいから!!」

「…………………

うん、じゃあ行こうかな」


数秒ののち、ヒビキが了承した。あれ、結構あっさりしてる。
ぱんぱんとズボンのひざの部分をはたくときちんと立った。

「僕も博士に一言言って行こう」

「じゃあ一緒にいこ!」

腕をつかんでひっぱればにこにこと笑ってうなずくヒビキ。……幼馴染万歳!ヒビキかわいい!!
閉じてしまった扉を再度開けて2人で研究所の奥へ進んだ


「アレ?ヒビキ君とヒジリちゃん、どうしたの?」

「博士!私たち旅に出ることにした!」

「え、ヒビキ君も出るのかい?」

「はい、ヒジリが行くって言っているんで僕も」

「私のせいみたい」

「ごめんね(まあ半分そうだけど)」


わざと頬を膨らませた私に苦笑いして宥めてくれるヒビキ。
それを見ながらすこしさびしそうな表情をする博士。

「そっか、ヒビキ君も行くのか…2人ともいなくなるとさびしくなるね」

「博士……!!大丈夫ですたまに戻ってきますから!
そして研究所を荒らしにきます!」
「あ、僕もー!」

「ちょっと!?ダメだよ!!」

笑ながら賛同してくれたヒビキにツッコミをいれる博士。
いや博士のこのツッコミがたまに聞きたくなるんで!!半分嘘です。
まったく、といいながら嬉しそうな博士。へへへ、と笑うとふと目に入った物。


「!博士、あれ…」

「ん?ああ、あれ?」

私が指さした先に行く博士。それをヒビキと2人で見る。
頑丈そうなガラスに護られたそれは

小さな赤と白の1つのボール。


「2度目の盗難に遭わないようにね、これなら残りの一つは大丈夫だろう?」

ガラスをこんこんと叩いた博士に、疑問を抱いた

「ねえ博士、なんでガラスで囲むの?」

「え?盗まれないようにするためだよ?」

「………護ってもらえばいいのに?」

「へ?誰に…?僕らじゃ前のように盗まれるかもしれないのに…」


「誰って、ヒビキに」


私の放った一言で目を見開く博士。
隣で控えめに私の名前を呼んだヒビキを無視して

「それに、可哀そうじゃないですか

ハス……ワニノコは私が旅に連れて行きます。
チコリータはシルバー君に連れて行かれて旅に出ています。

じゃあヒノアラシは?旅には出ないんですか?

どうせなら、3匹一緒に旅にでてほしいじゃないですか」


ね、と笑えば博士が呆けた顔をした後に急に笑い出した。
なんで笑うし。今度はこっちが呆けた顔をしていると笑いがおさまってきた博士。

「ふふっ、はあ…。

……いやーそうだね、ヒビキ君がいるじゃないか!!
ヒビキ君ならヒノアラシを護ってくれるだろう。それに旅にも行くみたいだし、一石二鳥だね!」

「でしょ!博士!」

「うんうん、そうだね。

で、ヒビキ君、どうだろう。最後の一匹で申し訳ないけど、ヒノアラシを受け取ってくれないだろうか」

「へ!?あ、あの僕……!!」


「るりー!」

どん、と後ろから体当たりをするマリルに押され、尻込みしていたヒビキが博士の前まで出て行く。
ああああの、とどもりまくっているヒビキをいいことに有無を言わさないうちにボールを持たせる博士。
連係プレーブラボー。マリルナイスよ!

「マリルいい子!」
「るりぃ!」

思わずしゃがんで抱き上げて頬ずりすれば嬉しそうに一鳴きした。
それをさっきまで静かだったサクが「うへえ」と声を出した。なんだよなんだよ!

「なによぅサク」

「……いや別に」

ふいと顔をそむけたサクを疑問に思いながら同じく疑問符を浮かべているマリルをおろしてあげた。
同時に戻ってきたヒビキ。両手でボールを抱え、なんだかむずがゆそうな表情。
……やっぱりヒビキに迷惑だったかな、ムリに押し付けちゃったし

「ヒビキ、」
「ヒジリ…………


僕、マリルとヒノアラシと一緒に旅に出る」




迷惑だったかな、という言葉は頭から消え去った。
代わりに浮かんだのは笑み。

「えへへ、おそろいだねヒビキ」

「あ、ほんとだ」

「頑張ってね」

「ヒジリこそ」


手をつないで研究所から出て行った私たちを博士が笑顔で見送ってくれた。
――――――――――――
最後爽やか(笑)
いや、ヒビキにヒノアラシ持たせたのはバクフーンを小説に出したかったとかそんなのじゃないんですよほんとなんですからね




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