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鋼×銀魂

第1訓 魔法使いじゃなくたって夢さえ捨てなきゃ世界も飛べる……はず



ある晴れた日の夕方

イズミ・カーティスの家に滞在しているエルリック兄弟は、イズミに頼まれ、買い物に出ていた。

「うへぇ……重い……」

げんなりとした顔で両手いっぱいの荷物を運ぶエドワード。

その姿に困ったような笑い声を上げながら、同じく荷物を運ぶアルフォンス。

二人は家に帰るため、たわいも無い話をしながら並んで歩いていた。

「……それにしても何でこんなに牛乳が必要なんだ……?」

買い物袋の中を覗き込みながら暗い顔でエドワードは呟く。

そこには買い物袋の中の半分以上を占拠している牛乳が。

師であるイズミの恐ろしさはよく知っているため、ちゃんと言われた通り買ってきたが……牛乳嫌いなエドワードにとってはその使用方法が気になって仕方ない。

「せめて……せめてシチューであってくれ……!」

そんな兄を横目で見ながらアルフォンス心の中で合掌した。


『例えエドが阻止しても牛乳買ってこい』

『え?あ、はい。でもどうしてこんなに大量の牛乳を?』

『アイツの牛乳嫌いを治そうかと思ってな。好き嫌いするからアイツは豆なんだ。』


買い物に行く前のイズミとの会話がアルフォンスの脳裏を駆け巡る。

それからも全力で怖がっている兄に対し乾いた笑い声を上げるしかなかった。


いつも通り何も変わらない日常。

それが唐突に、崩れた。


道端に何かが落ちていた。

それに気付いたアルフォンスが声をあげる。

「なんだろ、あれ?」

エドワードもそれに気づいて怪訝そうな表情を浮かべる。

「……本?」

それは、皮の表紙で装飾された一冊の本だった。

高価そうな本がこんな道端に無造作に落ちていることに、兄弟は首をかしげる。

アルフォンスは荷物を片手に持ち帰ると、屈んで本を拾い上げた。

「えっと……『異世界の行き方』……?」

表紙に書かれた題名を読んでアルフォンスはますます首をかしげる。

エドワードは表紙を覗き込んで眉間にシワを寄せた。

「ファンタジー小説か何かか?」

エドワードは錬金術師だ。

錬金術師は科学者であり、ある種の現実主義者である。

少し頑固な面も持つエドワードは、その突拍子もない題名に不信感を丸出しにしていた。

「これ小説じゃなさそうだよ?本当に『異世界へ行く手順』が書かれてる。」

同じ錬金術師でも比較的柔軟な考え方をするアルフォンスは楽しそうに本のページを捲る。

「なになに?用意するもの……『割れた日輪』……『書』……『鍵』……」

アルフォンスの読み上げていく内容にエドワードは益々胡散臭い物を見る目をした。


「……あれ?」


唐突にページを捲るアルフォンスの手が止まった。

「どうした?」

エドワードが聞くとアルフォンスは自分が見ていたページをエドワードに向けた。

それを見たエドワードは目を見開く。

「これ……錬成陣だよね……?」
アルフォンスの言葉の通り、そこには錬成陣が描かれていた。
そして、その隣のページには『陣の理解が最後の鍵』と書かれている。
エドワードはもう一度陣を見た。


七角形を円が結ぶ

中心には逆さに描かれた太陽と月

その上に描かれた雲、そして獣

獣と対象の形で人の姿

円の外には雌雄同体の獅子


「………雲の下……地に堕ちた天……天上の獣……地上の人…………そして、外側に神……」

エドワードは夢中になってその錬成陣を見た。アルフォンスも同じく錬成陣に見入っている。

「俺達の神が外……つまりこれが表しているのは、『異世界の姿』……」

そうエドワードが呟いた瞬間、紙上の錬成陣が応えるように光った。

「「え……!!?」」

目映いほどの光に包まれ、エドワードは目を閉じる。

アルフォンスは驚いて本を落とした。


落ちた拍子に本の最後のページが開かれる


そこには光に透かされ浮かび上がる淡い文字


『ようこそ、異世界へ』


二人を包む白い光は沈む夕日に燃やされ紅く輝いた。

しばらく紅く燃えた後、光は次第に細く、弱くなる。

本の文字を確認することなく、鋼の兄弟はその場から消えた。

夕闇の中、全てを見ていた一番星。

ぽつんと一粒瞬いていた。

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