Material 進撃×蟲師3 「降りてこい」と言われたから、手っ取り早く立体機動で木から降りる。私は『 ここ』の初心者だし、詳しく教えてもらおうと思って口を開きかけたが、ある違和感にとどまった。 彼は唖然とした表情で固まっていた。 「どうしたんだい?」 手のひらを目の前でヒラヒラとさせると、彼は驚いたように肩を揺らす。そして私の立体機動装置をまじまじと見た。 白い髪をしていたからてっきり結構な歳の人かと思ったが、近くでよく見ると私と同じくらいに見えた。萌木のような鮮やかな緑の目をしていて、顔立ちは「東洋人」の特徴によく似ていた。記録によると、東洋人の血を受け継ぐのはミカサが最後の一人らしいから、彼はだいぶ昔に亡くなった人なのだろう。立体機動に対するこの反応を見る限り、巨人が現れる前の人間という可能性もある。 うわ、考えただけでもたぎる! とりあえず状況が飲み込めないらしい彼のために、立体機動装置を説明してあげよう。 「これはね、立体機動装置って言って二次元的な動きしかできない私達が、三次元的な動きをする事を可能にする装置だよ。機動にはガスの噴射力と障害物にアンカーでワイヤーを張ることによって生まれる慣性の力を利用している。だからこういう場所で特に機動的な動きができるんだ」 しかし彼は解説してもよく分からないと言った表情で眉間にシワを寄せている。 「要は、こういう密集した所で空を飛ぶための道具だよ」 「訳が分からん……」 彼の反応に思わず苦笑する。まあ、立体機動の概念がない人が、急にそれを理解しろと言われても難しいだろう。 「その訳の分からん装置でお前さんが飛べるのは良いとして……なんだってあんなとこにいたんだ?どうやら蟲が視えるタチのようだが……」 「ムシ……?」 今度は私が首を傾げる番だった。 「私は目は悪いけど、メガネをかければ虫くらい見えるよ?」 「その虫じゃない」 彼は首を振り、ふかしていた煙草の火を消した。そして上方を見上げる。私も彼を習って上を見ると、木陰にぼんやりと光る小さなモノが集まり始めた。 「あの光って見える小さなモノ達が『蟲』という……俺達とは異なる命の形だ」 それは先程私が追いかけていた、『死後の世界の生き物』とは違う色と形状をしているものの、同類のモノに見えた。 そうか、あれは『蟲』というのか。 彼との出会いで一瞬忘れていた好奇心に再び火が点く。気づけば私はソレに触れようと手を伸ばしていた。 「ぐえっ」 しかし後ろから襟元を思いっきり引っ張られてしまい触れることは叶わなかった。首がしまり、えづくように私は咳き込む。 「ガキじゃあるまいに……無邪気に触りに行くんじゃねえよ」 頭の上から言葉と共に深い溜め息が聞こえた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |