Material 魔法×海賊14 「敵襲だ!」 パイプ菅から敵襲を知らせる声が響き渡り、それと同時に船が大きく揺れる。船が右に旋回しているらしく、体が左へと持っていかれた。バランスを失い椅子から体が放り出される。床に叩きつけられる未来を予想し、咄嗟に体を丸めて頭を庇った。 しかし私を襲った衝撃は、予想よりずっと小さなものだった。 閉じてしまっていた目を開けると、私はイゾウの胸の中にいた。 「大丈夫かい、嬢ちゃん」 驚きで固まってしまったが、イゾウの言葉で我に返る。 「あ、ありがとう、大丈夫よ」 慌ててイゾウから離れ、姿勢を正した。そんな私に「そりゃ良かった」と声をかけながら、イゾウは腰から銃を抜く。彼が両の手に銃を納めた途端、私の背筋を悪寒が通り過ぎた。思わず私は両腕で自分を抱き締めながらイゾウを見上げる。 イゾウの紅い口元は、綺麗な弧を描いている。しかしその笑みは先程までとは異なり、獲物を見つけた獣のようだった。 船に轟音が数回鳴り響く。恐らく大砲か何かをこちらが撃ったのだろう。イゾウは立ち上がると記録室の扉を足で乱暴に開けた。そのまま部屋を出ていくイゾウに、どうしたら良いか分からず、とりあえず後を追う。そんな私にイゾウは甲板の方へ意識を向けながら、甲板とは逆方向へ片手を伸ばした。 「嬢ちゃん、食堂はどこか……覚えてるな?」 その言葉に、私は静かにうなずく。 「俺達16番隊は午前中は『掃除当番』だからな、仕事をしなくちゃなんねぇ……が、そこまで嬢ちゃんを連れてく訳にもいかねぇからな。悪ぃが一人で食堂に行ってくれねぇか?」 「分かったわ」 好き好んで戦場へ行くつもりもないので、素直にうなずく。甲板の方から雄々しい雄叫びや発砲音が聞こえてくる。再び船が不自然に揺れ、私は壁に手をついた。 一瞬「この船が沈んでしまったら……」という最悪の未来が頭をよぎる。船の上に、逃げ場はない。 「万が一にも、この船が沈むことはねぇ。安心して待ってな」 私の考えを読み取ったのか、イゾウはそれだけ言うと甲板へと駆けていった。 イゾウと別れた私は、素直に食堂へは向かわず、全く違う道を走り出す。 (敵襲に遭っている今なら、混乱に乗じて杖を取り戻せるかも) 多分杖はマルコが管理していると思う。私のことは彼に一任されているらしいから。私はまず彼の自室を探しだそうと、与えられた寝室のある居住区域へと走った。 途中何人か知らない海賊とすれ違う事はあったけれど、居住区域へ近づくにつれて人も少なくなっていった。敵襲に遭っているときに、わざわざ寝室に戻る人はいないのだろう。 遠くから怒声や金属音が聞こえ、時折大きく船が揺れる。それらから、まだ争いは続いているらしいことを確認する。しかし、いつ人が来るかもわからないので、転ばぬように壁に片手をつきながらも、必死に足を早めた。 居住区へたどり着き、近くの扉を適当に開く。中をみると2段ベッドが四つ並んでいて、相部屋であることが伺えた。 (隊長が相部屋なわけないわよね) そう思って扉を閉じる。隣の部屋を開けてみても同様な相部屋だったため、この一帯は相部屋ばかりなのだろうと察する。扉を閉じ、さらに奥へと走り出した。自分の部屋も通りすぎ、さらに奥へ奥へと足を進める。外の怒声はどんどん遠退き、私の足音ばかり大きく聞こえる。 (偉い立場だし、一番奥の部屋かしら) この区域ではないとも考えられたが、もしそうなればこの敵襲の間に探し出すことは難しい。 そんなことを考えていると、突き当たりにたどりついた。突き当たりとは言うものの、壁ではなく突き当たりそのものが巨大な扉になっており、その奥に部屋か、もしくは通路があることがわかる。 「ここ……?」 扉を押してみると、重みはあるもののちゃんと動く。鍵はかかっていないらしい。この先にあるのが通路だった場合、これ以上進むことは戸惑われる。しかし、部屋ならば探してみる価値はある。 (少し覗いてみて、通路なら入るのをやめよう) そう決意し力を込めて扉を押した。重い扉はゆっくりゆっくりと動く。細い隙間からかい間見えたのは、大きな部屋だった。アタリだ、と思い、自分が通れるだけの隙間を開けようとさらに力を込める。 唐突に、扉が軽くなった。 突然の出来事に対応しきれず、込めた力のやり場を失い、前のめりに盛大に転ぶ。 何が起きたのか理解できず、打った膝をさすりながら起き上がる。そんな私が最初に見たものは、扉を片手で押さえながら私を見下ろす、白い口髭を携えた大男だった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |