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Material
魔法×海賊13
甲板は潮が白くこびりつき、壁などざらざらしている。鉄部分は錆びているところもある。私はバケツの水に雑巾を浸し、強く絞り上げた。

私は最初はデッキブラシで床掃除をしていた。しかし大柄な海の男に合わせて作られたデッキブラシだけあって、柄は長く重量も重く、私の腕には大分余ってしまった。それを見かねた甲板掃除組の班長のデルタが雑巾を与えてくれたため、今私は壁や窓を拭く仕事をしている。

「船大工に言って嬢ちゃんに合わせた道具を作って貰うようにするよ」

気のいい彼はそう笑って言ってくれた。正直一日も早く杖を取り戻して逃げ出したいのだが、気遣ってくれている彼にそんな感情を表に出せるはずもなく、私は笑顔でお礼を返した。

壁や窓は目立つところの潮はそうでもないのだが、海の男達は掃除も大雑把らしく、あまり目立たない荷物の裏や角等は酷く潮がこびりついていた。ちょっと雑巾で吹いた程度で取れるようなものではなく、途中から硬いたわしを借りて根気よく擦った。


あらかた気がつく範囲の潮を取り終えた所で、デルタから集合の号令がかかる。働いていると時間がたつのも早いもので、ふとマルコに渡された腕時計を見ると掃除をはじめてからすでに二時間がたっていた。

「皆お疲れ。甲板掃除はこれにて終わりだ。次のうちの班の当番は6日後の夕飯の片付けだから忘れないように。解散!」

デルタの言葉が終わると、他の海賊たちはそれぞれ解散していく。私はどうしたものかと思っていると、デルタがこちらへやって来た。

「ハーマイオニーは終ったら隊長のところにつれていくように言われてる。ついておいで」

私は言われるままについていき、船内に入る。デルタは食堂に行くでもなく、私に与えられた部屋の方に行くでもなく、入り組んだ船内を歩き続けた。そしてたどり着いたのは、『記録室』と書かれた部屋だった。デルタは2回軽くノックすると静かに扉を開く。

「失礼します、イゾウ隊長ー?」

扉の隙間から記録室が垣間見える。中は雑然としていて、何かの記録と思われる書類があちこちで山になっていた。

「おう、終わったかい?」

デルタの呼び掛けにイゾウは席から立ち上がるとこちらにやって来る。

「ご苦労だったな、デルタ。もう行って良いぜ」

「では失礼します」

デルタが去っていくと、イゾウは私に記録実に入るように促した。言われるがままに入っていくと後ろで扉が閉められる。

「汚いとこで悪いが、適当に腰掛けな」

そう言いながらイゾウは最初に座っていた席に座り直す。私はイゾウの机を挟んだ向かい側の席に腰かけた。

「今日の昼までお前さんの見張りを頼まれてんだが、手前の仕事が片付いてなくてな。悪いがしばらく付き合っておくんな」

そう言いながらイゾウは書類に何かを書き込む。遠目なので詳しいことはわからないが、数字や領収書が並んでいるところを見る限り何かの決算の書類のようだ。

「掃除はどうだった?」

イゾウは書類からは顔を上げないまま、私に尋ねる。

「あっという間に時間が終わってしまったわ。目立たない所にこびりついてた潮が手強くって」

すると、ちょっと笑ったようにイゾウは目だけをこちらに向けた。

「そりゃ悪かった。ここにいるやつらは細けぇ事には気の回らない野郎ばっかりでな。ナース達にも掃除がずさんだって時折怒られる」

イゾウの言葉にここにはナースがいるんだったと思い出す。今着ている服もナースの誰かからの借り物だ。

「ナースさん達に会って服のお礼を言いたいのだけど……」

イゾウの顔を伺いながらそっと言ってみる。するとイゾウは少し困ったように顎に手を当てた。

「あー……そりゃ難しいかもな。ナース達は親父んとこにいるから、マルコの許可がねぇと会わせられねぇ。この書類を親父んとこ持ってくついでに伝えとくから、それで我慢しちゃくれねぇか?」

度々出てくる『親父』という人物がこの船の重要な人物であるのは何となく察していたので、仕方ないと割りきる。私はイゾウにお礼の伝言をお願いすることにした。

「それにしても……服を取り上げられたのは嬢ちゃんの方なのに、ナースに礼とは変わってるな」

「服を取り上げているのはマルコで、服を貸してくれたナースさん達とは別でしょう?迷惑をかけているんだから、お礼を言うのは当然よ」

私は当たり前のことを言っているつもりだったが、イゾウにとっては面白いらしく、少しの間ペンの手を止めておかしそうに笑っていた。

「そうかい、じゃあしっかり伝えておくから安心しな」

会話はそれきりで、イゾウは再び書類に目を戻す。私も邪魔をしないように黙って部屋の観察をしていた。

(今さらだけどこんな色々な書類があるところに部外者の私がいて良いのかしら)

この部屋には様々な書類が山になっている。ファイリングしてあるのもあれば、紙がそのまま積まれているだけの山もあり、中身が丸見えだった。しかし、海図や島の地図などは何となく分かるのだが、中にはなんのための資料なのかさっぱり検討もつかないグラフなどもあった。

(海獣の出現率に、シーモンキーの推進速度……海坂のパターン……?)

自分のいた魔法界も大概不思議だったが、ここの世界もマグルの常識では測れない程度には不思議なようだ。魔法界にもマーピープルはいるし、海獣やシーモンキーは分からなくもないにしても、海に坂があるなんて想像もできない。

(マルコの言っていた『何でもありのグランドライン』ってこう言うことだったのね)

ぼんやりそんなことを考えていると、突然船に金属を叩くような高い音が鳴り響いた。

「敵襲だ!!」


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あきゅろす。
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