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魔法×海賊10


マルコに案内されたのは、鍵つきの部屋だった。部屋にはベッドと小さな机があるだけで、他に何もない。部屋全体は埃っぽく、生活感を感じない。おそらく、長い間空き部屋だったのだろう。

「しばらくこの空き部屋をお前に貸してやる」

そう言うと、マルコはポケットから何を出して私に差し出した。受けとってみると、それは腕時計だった。時刻は12時を指している。

「単独行動は禁止。朝は6時起床、7時に飯、8時から各部屋・倉庫の清掃だ。12時から13時に昼食で、その後は各隊長の指示に従え。異論は認めねえ。本意だろうと不本意だろうと、この船に乗ってる限りそれがルールだ」

ここで反抗して倉庫に逆戻りは避けたいので素直にうなずく。マルコは最後に「船の中は明日案内する」とだけ言って部屋を出ていった。扉が閉じた後、鍵がしまる金属音が部屋に響いた。

私は靴と上着だけ脱いでベッドに寝転がる。仰向けの体勢で力一杯体を大の字に広げれば、こわばっていた体が少し楽になった。

一つ息をついて思考を巡らせる。

(……これはきっと『様子見』ね。下手に動けば殺されてしまうのは間違いないわ…… )

ここは杖を取り返すことは考えず、できるだけ自分が無害であることを訴える方が良さそうだ。今は大人しく、従順に……彼らの信用を得るまで……。

そこまで考えて、不意に目頭が熱くなる。誰に見られているわけでもないが、とっさに広げていた両腕で顔を覆った。

(どうしてこんな事になってしまったの……)

何者にも脅かされることの無い、そんな日常が訪れたと信じていたのに。何故だか今こんなところに軟禁されていて、私はどうやって彼らを騙すか考えている。

想いと共に押し寄せてくる衝動を、奥歯を噛み締めることでどうにか耐えた。

(今は泣いている場合じゃない。生きてみんなの所に帰らなきゃ)

両手を握りしめ、何度か深呼吸をする。

「よし!」

わざと掛け声をあげて一度起き上がり、毛布の中に潜り込む。頭の上まで毛布をかぶり、そのまま目をつむって眠ることにした。



翌朝、先に倉庫で寝てしまったからか、夜はあまり寝ることはできなかった。5時には完全に目が覚めてしまい、ベッドから出て軽くその場で体操していた。

(まずはこの船について色々覚えなきゃ。正確な広さ、各施設の場所……いざって時に隠れたり逃げるためのルート……でも、決して怪しまれてはいけない)

そんなことを思いながら体を伸ばしていると、扉からノック音がした。

「おーい、ハーマイオニー?起きてるかー?」

サッチの声に、少しほっとする。

「起きてるわよ」

そう言いながら扉の方へ近づく。扉から鍵が開く音がしたのでドアノブを引けば、そこには女物の服を何着も抱えたサッチが立っていた。

「よく眠れたか?これ、当面の着替えだから。これに着替えたらまたドア開けてくれ」

渡された服を受け取ると、サッチは再び扉を閉めた。

とりあえずベッドに渡された服を広げる。どれも見覚えの無いものばかりで、私の服は一着も混ざっていなかった。

(徹底してるわね……でも困ったわ)

別に自分の服を渡されない……ということは問題ない。だが、渡された服に問題があった。

どれも派手で、露出が高いものばかりなのだ。

(……これなんてほとんど水着じゃない……)

とりあえず派手すぎるものをはじく。残った中から袖の長いものを探し出して着替えた。下は動きやすさを考えて短パンを選ぶ。

着替え終わって扉を開けば、サッチはこちらを見てニッと笑った。

「ハーマイオニー、大人っぽいのも似合うんだな」

そう言ってサッチはぐしゃりと私の頭を撫でる。言葉に反して完全に子供扱いだ。

「遊んでねぇでさっさと行くよい」

右からかけられた言葉に驚いて振り向くと、ドアの影からマルコが出てきた。いつの間にいたのか……全く気づけなかった。

「悪い悪い。可愛いからつい、な」

そう笑うサッチの言葉に、マルコは横目で私を見る。

「……ちょっと胸周りに余裕があるみたいだがな」

「なっ……!」

デリカシーのない一言に思わず言葉を失ってしまった。顔に熱が集まるのを感じる。そんな私を尻目にマルコは何も言わずにさっさと歩き始めた。

(さいっってい!!セクハラ男!!)

口に出して言う勇気はなかったので、心のなかで盛大に罵る。

「ほらハーマイオニー、俺達も行こうぜ。今日の朝メシは『サッチ様特製プレート』だかんよ」

そう苦笑混じりに言うサッチに促されて私はマルコの後を追うように歩き出した。





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あきゅろす。
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