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魔法×海賊 6

異世界に来てしまった。

みんなが「秀才だ」と誉めてくれる頭が導き出した、現状に一番当てはまる『解答』は、とても残酷なものだった。


今まで沢山の試練を乗り越えてきた。逆境を跳ね返してきた。

でもそれは、みんながいたからだった。

ハリーが、ロンがいたから……私に足りないものを二人が埋めてくれたから、私は頑張って来れたんだ。

私は私の出来ることを最大限に活かすことができた。

でもここでは私は一人。足りないものを埋めてくれる親友も恋人もいない。

誰も助けてはくれない。

それは、今までにない、叫び出したくなるほどの不安だった。


しばらく沈黙が続き、まどのない倉庫には船で働く男達の声だけが遠く聞こえてくる。

それまで少し離れた場所で立っていたサッチが、唐突に歩き出した。

倉庫に彼の足音が響く。

足音が私の方に近寄ってきているのが気になって顔を上げれば、彼が私の隣に腰を下ろすところだった。

「なぁハーマイオニー、お喋りしようぜ」

一瞬言われた言葉の意味が分からなくて、呆けてしまう。

「……なんですって?」

かろうじて聞き返すと、サッチはニッと笑った。

「君のこと、俺のこと、君の世界のこと、俺の世界のこと……答えたくないことは答えなくて良いし、俺もそうするから」

お喋りしよう、そうもう一度言う男の狙いが分からなくて、黙り込んでしまったけど、よく考えればこれは情報を得るには持ってこいの誘いなんじゃと思い直して頷いた。

「……いいわ、お喋りしましょう」

そう応えると、そう来なくちゃな、と言ってサッチは嬉しそうに口角を上げた。

「まずさ、ハーマイオニーは何歳なんだ?」

「レディに最初に聞くのが年齢だなんて、なってないのね」

不安な気持ちを紛れさせたくて、相手は海賊だというのに軽口を叩く。でもサッチはそれくらいで怒ったりせず肩をすくめて見せた。

「紳士じゃなくて海賊だからな」

そう言うサッチに、それもそうね、とうなずいてやる。

「18よ」

別に隠すほどのことでもないので、短く答えれば、サッチは「へぇ」と声をもらした。

「貴方は?」

「俺の年齢なんて言わなくても分かるだろ?とりあえずオッサンさ」

聞き返せば、そう言って教えてはくれなかった。けれど、別にそれほど知りたかったわけでもないし気にはしない。

「じゃあ……この船、とても大きいけど大体何人位乗っているの?」

「この船だけなら700人くらいか?並行してる周りの三隻の船と合わせて大体1600人はいるぜ」

「1600人……」

魔法省の忘却術師ならともかく、私みたいな一般の魔女がそれだけの人に忘却呪文をかけるなんて、例え杖を取り戻しても不可能だ。忘れさせる、というのはもう諦めた方が良さそうだと心の中で溜め息を吐いた。

「この世界では海賊ってこんな大規模なのが普通なの?」

「いんや、ウチは海賊ん中でもかなりデカイ方だな。大体100人くらいが普通の規模だな」

今度は俺にも質問させてくれ、とサッチは続ける。

「ハーマイオニーが好きな食べ物は?」

「沢山あるけど……そうね、フルーツタルトが好きだわ。貴方は?」

聞き返すと、サッチは「そうだな」と悩むしぐさをする。

「俺もフルーツタルトが好きだな。リンゴタルトやレモンタルトなんかが好きだ」

見た目にそぐわない可愛らしい回答に、失礼ながらも笑ってしまう。

「意外に可愛いのね」

思ったことをそのまま口にすれば、「菓子は女の子の特権じゃないんだぜ?」としたり顔で言われた。

「飲み物は何が好きだ?」

飲み物と言われて一番に出てきたのは、三本の箒で飲んだあの熱々のお酒だった。

「バタービール、かしら」

「バタービール?」

聞き慣れない単語に、サッチはオウム返しのように繰り返す。

「私がいたところの、『三本の箒』ってお店が出してる熱いお酒よ。って言っても、ほとんどアルコールは入ってないし、味も甘いんだけど……飲むととても暖まるの」

それに、バタービールには沢山思い出がつまっている。

「熱いビールね……あんまり想像つかないな。ビールは冷たいから旨いんだろ?」

「私がいたところはとても寒い場所なの。出掛け先で冷たいビールを飲もうと思えないくらいにわね」

冬島出身なのか〜、と独り言のように呟かれたが、イギリスが彼の言う『冬島』なのかがよく分からなくて答えられなかった。

「俺は……酒ならビールよりラム酒が好きだな。んで、紅茶ならリキュールを入れたい派」

「私はお酒よりミルクを入れる方が好きだわ。ところで……貴方はコックなの?」

腰にサーベルを携えてはいるが、服はまるでコックを連想させるもので、先ほどからそれが気になっていた。

「一応な。まぁ料理も菓子作りも元々は趣味から始めたんだけどな」

「じゃあやっぱりそれ、コックの衣装だったのね。でも……少し、意外だわ」

「よく言われる」

私の遠慮のない言葉にも、気を悪くした様子なくサッチは笑う。軽口を言っても失礼なことを言っても怒らない彼は、とてもお喋りしやすかった。

「ハーマイオニーの趣味は?」

「私はそうね、読書かしら」

そう答えると、サッチはしかめっ面浮かべた。

「うげっ、俺の天敵じゃねーか」

私の周りでよく見るその表情に、思わず笑い声を上げてしまう。

「読書はお嫌いなの?」

「体を動かす方が好きだね」

サッチの筋肉は服の上からでも分かるほど逞しく、確かに動くのが得意そうだと頷いた。

「私はそっちの方が苦手だわ」

そう言えば「筋肉ついてないもんな」と返された。これでもここ一年で鍛えられた方なのだが、彼にとってはこんな筋肉、無いのと変わらないのだろう。

「本はどういうのを読むんだ?」

「何でも。物語も好きだけど、専門書や論文の方がもっと好きだわ。本は読めば読むほど私の力になってくれるのよ」

サッチは「へぇ」と感心したような目を向けてきた。

「お前、実はマルコと気が合うかもな」

名前を出された乱暴な金髪の男に、今度は私がしかめっ面を浮かべてしまう。

「気が合う合わない以前に嫌われてるわ。そして私も嫌ってる」

私も自分がいかに彼等にとって怪しい人物なのかは理解しているつもりだが、それでも荷物や自由を奪われた不満は込み上げる。

「警戒してるだけだよ、許してくれ。アイツにも色々背負わなきゃいけない『責任』があるんだ」

それは甲板での彼の行動で何となく察しがついたから、言いたい文句も不満も溜め息一つで抑えることにした。

結局、どっちが悪いかと問われれば無断乗船していた私なのだ。それがわざとでないとしても、彼らは被害者だ。

「こんな風にお喋りしてるけど、貴方はどうなの?」

尋ねれば、サッチは笑って両手を上げた。

「面倒なことはマルコに押し付けることにした!俺はこんなに可愛い女の子に嫌われたくねーからな」

「あら、お世辞が上手いのね」

そんな軽い誉め言葉に頬を染めるほど私は幼くないわ。そういう気持ちを込めてサッチを見上げると「ん?本音だぜ?」と返された。

このやりとりで、この男は意外にキザなところがあるということと、―――とてもマルコという男を信頼してると言うことが分かった。

「お喋りを楽しんでるようだがちょっといいかい?」

唐突に、サッチではない声が降ってきた。その声の正体は、たった今話題になっていた男―――マルコだった。

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