Material 魔法×海賊 4 そのまま何の抵抗も出来るはずもなく、ビーズバッグはあっさりマルコの手に渡った。「そのまま両手を上げてろ」と言われ、仕方なしに両手を上げて無抵抗の意志を示す。マルコは受け取ったビーズバッグを後ろの仲間に渡し、中身を改めるように指示を飛ばした。 ビーズバッグを受け取った男は、バッグの中におもむろに手を入れる。 「……何だこれ!!」 直後、悲鳴じみた声が上がる。私を監視するようにこちらを見ていたマルコも、その声に慌てて振り向いた。 彼らの視線の先には、小さなビーズバッグに肩まで突っ込んだ男の姿があった。 「うわっどこまでも手が入る!!」 「見た目腕ないぜ、お前!大丈夫なのか!?」 「なんか気持ち悪っ……でも大丈夫だ」 「どうなってんだ一体」 拡大された空間に入っていった腕は見た目には見えない。慣れない光景に多くの人が目を剥いていたが、入れている本人は安全だと分かると吹っ切れたらしい。中をガサガサと漁り始めた。 「それで、何が入ってんだ?」 「あー?なんかめっちゃ本入ってる……あ゛、崩れた」 ゴトゴト、とバッグの中から重いものが崩れた音がして、本が雪崩を起こしたのね、と嘆息した。本棚でも入れようかしらと思うのは、完全に現実逃避だ。 「あとは……何だこれ……鍋か?」 そう言って引っ張り出されたのは煤の付いた魔法薬学の大鍋で、明らかにビーズバッグより大きいものがビーズバッグから出てきたことに周りはどよめき立つ。 「まあ予想はついていたが……ホントどうなってんだ?」 サッチが大鍋とビーズバッグを交互にまじまじと見る。男が大鍋をビーズバッグに押し込むと、当然ビーズバッグはあっさりと大鍋を収納した。 「どういうことだよい、これは」 その一部始終を見ていたマルコは渋面でこちらを振り返る。しかし完全にこっちを向く前に、私はしゃがんで杖に手を伸ばした。 「エクスペリアームズ・武装解除!!」 銃は魔法使いの杖と一緒だ。額から銃口が外れれば怖くはない。そう自分に言い聞かせ、素早く呪文を唱える。 「!!」 マルコの手からは銃が吹き飛び、それに彼が驚いた隙に私は彼の目の前から素早く離れる。 「アクシオ・ビーズバッグ!!」 杖を振るえばビーズバッグは私の方へと飛んできた。一瞬何が起きたのか分からないという顔をしていた面々は、やがて殺気立ち各々の武器を構える。 「……もう一度聞き直す。お前ぇ何者だよい」 額に青筋を浮かべたマルコが射殺さんとばかりにこちらを睨んでくる。そんな殺気に怯える自分を叱咤し、真っ直ぐに杖を構えた。 「ごめんなさい。今見たものも、私と会ったことも……全部、忘れてもらうわ―――オブリビエイト・忘却せよ!」 しかし杖先の延長線上にいたマルコは、素早く身を翻し、魔法をかわしてしまった。 再び忘却呪文を放つが、それも軽くかわされてしまう。 「本性現しやがったな」 唸るようにそう言うと、マルコは数歩踏み込み、回し蹴りを繰り出してきた。 「ぷ、プロテゴ・護れ!!」 どうやら相手は肉弾戦を得意とするらしい―――海賊ならば当たり前なのかもしれない。 せめて武器に頼る相手なら武装解除で決着がついたのに……身一つで戦ってくる相手をどうすれば止められるか必死に考える。 そこに相手を傷付けるという選択はなく、ただ守りに徹し、時に隙を見て忘却呪文を放った。 「なんだよい、その力」 蹴り技を見えない壁に止められたマルコは、杖先の向きに注意しながら尋ねてくる。 「知らなくて良いことよ」 相手から目を離さずに、短く答える。 どうやら周りの男達は武器を構えてはいるものの、手は出さないらしい。それは私が舐められているからなのか、それともこの男の信頼が厚いからなのか―――きっと両方なのだと察した。 「それはお前が決めることじゃないよい」 突然蹴りの威力が増した。プロテゴでは衝撃を防ぎきれず、反動で思わずよろける。 すぐに体勢を立て直すが、その隙を見逃してもらえるほど甘い相手ではなかった。 「あうっ」 杖腕を捕まれ、捻り上げられる。痛みに顔を歪めるが咄嗟に呪文を唱えた。 「ルーモス・マキシマ!!」 強い光で目眩ましをする。しかしその程度で驚いてくれはしなかった。緩まない腕の力に、反対の腕で抵抗するが、力の差は歴然であっさり抑え込まれてしまう。 そのままビーズバッグと杖を取り上げられてしまった。 「この中身を全部調べろ。慎重にな。……お前はこっちだ」 ビーズバッグを男達に渡して、私は腕を手首を捕まれたまま乱暴に引かれる。 「どうやら海賊っていうのは本当みたいね」 あまりに海賊らしい乱暴さに、一人溜め息を吐いた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |