Material 魔法×海賊 2 闇に沈んだ意識はすぐにまた浮上した。 ああ、まだ揺れている。 けれど少し揺れは収まったみたい。 現状把握をするために痛む頭を回転させる。 手探りで、自分がビーズバッグを持ったままなことと、ベルトに杖が差されていることを確認する。 しかし、不意に背中を風が吹き抜けるのを感じて違和感を覚えた。 何故コンパートメントの中にいるはずなのに風を感じるのかしら。 窓が割れたのかそれとも再びドアが開いたのか、一瞬そう考えたが、よくよく考えればまだ汽車はホームの中だ。風はない。 打った頭を抑えながら、うつ伏せで倒れていた上体を起こし、辺りを見回してみる。 私の目の前には、太陽に輝く青い海が広がっていた。 「な……んで?」 理解できない光景に呆然とする。 揺れている、と思ったのは、先ほど汽車を襲った震動ではなく船の揺れだった。 ―――私は船の甲板の端に座っていた。 私はいつの間にか姿あらわししていたのか、と思ったがそんなはずはない。アレはしっかりと行き先を頭に描かなければ失敗してバラけてしまう。こんな見も知らぬ海に無傷で出てこれるはずがない。 ならどうして……とまとまらない頭を回していると、背後から突然声をかけられた。 「お前さん、何者だい?」 声に驚き、慌てて振り返る。 私の後ろには、人相の悪い男達数十人が剣や銃を構えて私を囲むように並んでいた。 「え……?」 言葉が出ない。まさにそんな感じだった。 驚きが全てを支配していて、何も頭が働いてくれない。 「何者だって聞いてんだよい」 男達の中から一人、独特な髪型をした長身の男がこちら近付いてきたかと思うと、無理矢理腕を捕まれ立ち上がらされた。 「いっ……」 思わず痛みに顔をしかめる。しかしその痛みでやっと頭が働いてきた私は、睨むように見下ろしてくる男を正面から見返した。 一つ深呼吸をし、ぐっと顎に力をいれて口を開いた。 「……ハーマイオニー・グレンジャー」 声は少し震えたが、なんとか出すことができた。 きっと彼らは名前を知りたいのではないと分かってはいたけれど、魔女だと名乗るわけにいかない以上、それ以外に答えようがない―――武器を構えた彼等はきっとマグルだ。 案の定男は少し苛立ったような顔をした。 「……どうやってここに来た」 私は首を振って答える。 「わからないわ。気が付いたらここにいたんだもの」 正直、私が教えてほしいと言うのが本音だった。 男は難しい顔で考えるように口を閉ざす。 しかし捕まれた腕が痛みを通り越して痺れてきたので、そっと口を開いた。 「あの……良ければ腕を離して下さらないかしら」 しかし男はすぐに首を振った。 「どこの誰とも知れないやつを離しておけるかよい」 言いたいことはわかるが、こんな小娘が船に迷い込んでたくらいで、いささか警戒しすぎなんじゃないだろうか。 まぁいるはずのない人間が突然紛れ込んでいたら驚くだろうが、こんなに強く掴まなくても良いと思う。 しかしそこまで考えて、はたとある可能性を思いついた。 もしかしたらここはどこかの貴族のプライベートシップなのかもしれない。 今このご時世で一般の船があんな銃や剣なんて武器を持っているはずがないが、ボディーガードというなら説明もつく。私がここまで警戒されているのはテロや暗殺を狙った人間と疑われているからではないか。 それならば何処かに貴族の紋章と共に国旗をかがけていたりはしないだろうかと、そう思って男から目を離して船のマストを見上げた。 そしてすぐに後悔した。 メインマストの上に掲げられていたのは、黒旗に白で描かれた骸骨―――ジョリー・ロジャーだった。 「か、海賊船……?」 思っても見なかった旗に愕然として呟いた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |