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アンジェリークNOVEL
両手で包まれる(チャーリモ)
「じゃあ〜ん! これでっしゃろ? 陛下がお探しの品は?」
 チャーリーが上に掛けた布を大仰な効果音と共に取ると、彼の持って来た商品が女王陛下の目の前に差し出され、彼女はわあっと声を上げた。
「そう、これ、これなの! ありがとう、チャーリー!」

 そこにあったのは、ソフトビニールで出来た手の平に乗るくらいのキャラクター人形。空気を入れて膨らませ、尻尾や手の部分を腕に巻き付かせることができる、懐かしいおもちゃだ。
「懐かしい! これね、何度も売り出されてるらしくて、わたしの子供の時にもお祭りで売ってたの」
 女王陛下はピンクのサルと水色のゾウを両手でそれぞれそっと抱えた。
「その通り、うちとこでも何度か販売してるゆうて。せやから倉庫引っ掻き回して、当時の取り扱い店舗へも聞き捲くりましたんで」
 チャーリーは自分の胸をドンと叩いて自身の苦労を女王陛下へ訴える。
「そらもう、女王陛下のためなら、そんなんちーとも苦になりまへんけどな」
 楽しそうに女王陛下はグリーンの瞳をきらきら輝かせて笑う。
「いっぱいお世話掛けちゃったのね。わたし、とってもうれしい!」

 女王陛下が幼い頃に大事にしていたおもちゃ。時代が違うから仕方がないとはいえ、彼女の言うそれを守護聖は誰も知らなかった。守護聖だけでなく、彼女の補佐官も知らなかった。
 生家が貴族であるロザリアには確かに、少しばかり低価格すぎる品物と言えなくもない。けれど親友の彼女にも知らないと言われ、女王陛下は庭園出入りの商人に泣き付いたのだ。
 そして彼は見事、女王陛下の期待に応えてくれた。
「まあ、それですの。陛下が言っていらしたおもちゃは」
 女王補佐官を前に、女王陛下は腕にピンクのサルをくっ付けてくすぐったそうに笑う。その横に笑顔で付き従うのは、水色のゾウを腕に付けたチャーリー。
「ねえ? 可愛いでしょう? 商人さんってばすごいでしょ」
 自分の手柄のように彼の手腕を褒める女王陛下に合わせ、チャーリーはロザリアへも紫のカバを手渡した。ロザリア様も、手に入れたい物があったら何でも言ってや〜、との売り込みも忘れない。
 そうして女王陛下とチャーリーのコンビは、守護聖たちの元を一回りして、大騒ぎの自慢と御用聞きの行脚を終えた。

「みんなの分まで、ありがとう。ええと、お代はいくら?」
 見上げる瞳が、チャーリーの良からぬ事を企んだ顔を見て丸く見開かれた。
「お安いもんや」
 そう請け合い、屈んだチャーリーは女王陛下の耳元へ低く囁く。
「あんたのキスひとつ」
 途端に女王陛下の頬は真っ赤に染まった。
「チャーリーってば、そうやっていつも……」
 その後は消えた言葉。赤い顔のまま横を向く女王陛下に、拗ねた表情でチャーリーが首を傾げた。
「あかん?」
 腕に付けていたピンクのサルを手に取り、女王陛下はそれをじっと見る。
 ただの少女として生きた日々はもう戻らない。けれどいつも。彼の前では普通の少女へ戻ってしまう自分を感じる。
 女王陛下には、ピンクのサルが笑ったように見えた。そして彼女はゆっくり首を振る。
「分かってるくせに」
 上目遣いでチャーリーを見上げる彼女の頬は薔薇色。熱いその頬をチャーリーの長い指が包む。
 彼女の名を呼ぶ唇の前に、金色の睫毛が下ろされた。

end



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あきゅろす。
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