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アンジェリークNOVEL
共同作業(ジュリコレ)
 確かに、どうせなら作業を進めるのに普段組まない相手と組んでみたら、と女王陛下に進言したのは光の守護聖自身だ。いつもならそれはジュリアスにとってオスカーになっていただろう。
 それじゃクジ決めにしましょう! と笑顔で言った女王陛下の提案に、それは公平になってよろしいでしょう、と受け合ったのも光の守護聖だ。
 けれど。
「アンジェリーク。そんなに机の端にいたのでは、リストが見えぬだろう。もっと椅子を寄せてこちらへ寄るがいい」
 光の守護聖の執務机の上に広げられた白地に金の縁取りのカード。彼らはそこへ聖地に住む人々の名前を記し、新年の祝いのメッセージを書かねばならなかった。

 ジュリアスは昨年、女王候補であった陛下と補佐官へ、新年を祝うカードを贈った。それが彼女ら二人には印象的だったとみえ、今年は聖地に暮らすみんなへ守護聖たちからカードを贈りましょう、と女王陛下が高らかに言ったのだ。
 執務に何でも文句を言う鋼の守護聖からはもちろん反対を唱える声が上がったが、陛下と補佐官二人は迫力のある笑みで彼を黙らせ。他の者も思うところはあったようだが同意を示して頷いた。
「だけど一人だと後回しになっちゃったりするから、サボらないように誰かとペアを組んでやるといいと思うの〜」
 また陛下はロクでもない新しい提案をしたことに、自分でニコニコしている。けれど放って置いたならクラヴィスの分は水の守護聖一人が抱え込みそうだと思い、ジュリアスは進言した訳だ。普段組まない相手と、と。

「カードは私が勝手に選んでしまったが、これでよかったか」
 彼の問いに、栗色の髪の女王候補は俯いて小さな声ではいと答える。ジュリアスは肩を落として小さく溜め息を吐いた。
 元よりアンジェリークが彼を苦手に思っていることは彼にも分かっている。そしてどうやら彼女がきつい言葉に身を竦めてしまうことも。
「そなたは新しい宇宙を担う女王になるかもしれぬのだから、私へも忌憚なく思ったことを言えるようにならねばな」
 言ってしまい、ジュリアスはしまったと思う。また説教のようではないか。
 けれど長い沈黙の後、アンジェリークがカードを見ながら口を開いた。
「白地に金のこのカードは、ジュリアス様らしいですし、新年のお祝いに相応しいと、思います。わたしは、好きです。わたしも一枚欲しい、です」
 そして言い過ぎたかと思ったか、はっと口を押さえ、そろそろとアンジェリークはジュリアスを見上げた。
「そうか。そなたも気に入ってくれたか。だったらリストにもう一名加えなくてはならぬな、女王候補特別寮、アンジェリーク、と」
 ジュリアスの言葉に、彼女はさらさらの髪を揺らして頷き、微笑んだ。

「ほう。これは……よいな。驚いた。バランスもよく、美しい。それに何より丁寧で感じがよい」
 アンジェリークの綴る文字に、ジュリアスは感心した声を上げる。今時の女子高生の書く文字になど、彼は全く期待していなかったのだが、そう考えていた自分をジュリアスは恥じた。
「え、そうですか。あの、ありがとうございます」
 光の守護聖の手放しの褒めように、恐縮しながらもアンジェリークは頬を染めて礼を返した。
「秘書に雇いたいくらいの、私の好きな字だ」
 カードに書かれた文字をためつすがめつ眺めながら、ジュリアスは感心して首を振る。するとアンジェリークがふふっと笑って彼へと提案した。
「それじゃ、ジュリアス様のお名前も、リストに加えていいですか?」
 浮かぶ笑みを抑えられぬまま、ジュリアスは頷いた。
「よろしく頼む」
 こうして彼女の知らなかった部分を知ることができ、こんな作業もたまにはよい、と胸に柔らかなものを感じるジュリアスだった。

end



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