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アンジェリークNOVEL
髪(メルコレ)
 あのひとがここへ残して行った、ひとすじ。
 メル、禁じられたおまじないをしちゃいたいって、さっきから思ってる。
 誰か、止めてよ。


「メルさん? 今、占いの館に行ったんですよ? いないから、どうしたのかなって、思っちゃってました」
 庭園の脇の小さな草むらにしゃがみ込んでいたメルは、掛けられた声に頬を染めてアンジェリークを見上げた。逆光になっている彼女の表情はよく見えず、後ろの眩い陽光へ眉を顰めてメルは瞬きした。
「う、うん。あのね、シロツメクサのお守りを、あの、頼まれていたの。それで、メル……」
 メルはアンジェリークの視線を避けるように俯いた。クローバーの群生へ手を入れ、草のひとつを所在なげに指で触れる。
「シロツメクサのお守り? 四葉のクローバー、ですか?」
 わぁ、と楽しげな声を上げてアンジェリークがメルの横へしゃがみ、彼と同じように足元のクローバーへ指で触れた。

「そうなの。もしあったら、お花と一緒に、押し花にしたらいいなって、思って。探してるの」
 熱心に草を見る振りをして、メルはアンジェリークの視線を避けたが、彼女はそんな事に気付きもしないようだった。
「素敵。わたしも、いっしょに探しても、いいですか?」
 にっこり笑うアンジェリークに逆らう術はメルにはない。けれど躊躇いがちにメルはアンジェリークをちらっと見た。
「でも、アンジェリーク。忙しい、でしょう?」
 ふるっと首を振るアンジェリーク。それに合わせてサラサラの髪が顔の横で跳ねる。
「今日はもう、育成は終わりました。それで、今日はあと、メルさんとお話、したいなって……」
 そこで少しばかりアンジェリークは頬を染めた。
「あの、ダメですか?」
 アンジェリークの言葉に今度はメルが慌てて首を振った。
「ううん! メル、うれしい」


 午後の日差しを受け、アンジェリークの髪は天使の輪のように光を返す。細い絹糸のような髪。屈むアンジェリークの頭を見つめるメルに気が付いて、彼女は笑った。
「メルさん、さぼってましたか? 商人さんのお店のほうばかり見て」
 え、あっ、違うもん。メルは頬を染めながら笑って返した。メルが見てたのは、あなたなのに。
 そこでメルは気が付いた。アンジェリークが左の指をメルから隠すようにしているのを。よく見ると薬指に絆創膏を巻いている。
「あ……れ? アンジェリーク、怪我してたの? 大丈夫?」
 メルが尋ねるとアンジェリークは真っ赤になった。そして左手を体の後ろへ回して首を振る。
「いえあの。大した事、ありません、から」
 でも今、絆創膏の縁にちらっと赤い筋が見えた気がした。
「でも、血が出てるかも。見せて」
 メルの心配した表情に、アンジェリークは心底困った顔でまた首をふるふる振った。
「こっ、これは血じゃなくって、髪……」
 アンジェリークは失言にぱふっと口へ手で蓋をした。彼女はすぐに慌てて後ろへ手を隠したけれど、その拍子に見えてしまった。確かに血ではない。細くて長い赤い糸のようなものが、アンジェリークの絆創膏の下、指へ巻かれているのが。

 メルは大きな目をもっと大きく見開いて瞬きした。メルは少女たちがするそんなおまじないを見知っていた。「好きな人の髪を気付かれないように抜いて薬指に巻く」というもの。
 メルこそ、まだおまじないかけてないのに。
 今日にでも、アンジェリークの栗色の髪を使って、やってはいけないおまじないをしてしまうところだった。
 民間に伝わる他愛無いおまじないでも、火龍族がやったら強力な力を持つ。好きな人の髪の毛を自分の髪と絡ませて燃やす。二人が恋に身を焦がすように。

「アンジェリーク、メル、メルね……」
 髪と同じくらい真っ赤になって口を開いたメルへ、アンジェリークも同じくらい顔を赤くしながら、足元を指差して微笑んだ。
「メルさん! そこに四葉のクローバー!」

end



コレットindex
NOVEL INDEXTOP




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