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アンジェリークNOVEL
一緒の時間(ルヴァロザ)
「なんだか、前にもこんな事があったような〜。そんな気がしますねえ」

 ルヴァの言葉にロザリアは紅茶を淹れる手を止めて、彼を見た。
 新女王の即位以来、多忙を極めていた青い髪の女王補佐官は、聖地のテラスでこうしてゆっくりとティータイムを過ごすことはまだ何度目か。ルヴァへ紅茶を振舞うのは確か初めてのはずだ。

 ロザリアはルヴァが「前あった」と感じたその相手にすぐに気付いてしまい、複雑な心境で彼から視線を外した。
「そのお相手はきっと、ディア様でいらしたのでしょう?」
 おやあ。首を捻って地の守護聖は考え込んだ。
「ああ、言われてみれば確かに。そうですねえ、ディアとはよくこうしてお茶をいただきましたから、その時の事が思い出されたのでしょうねえ」
 ひとり、うんうんと頷くルヴァを見て、ロザリアは小さく溜め息をついた。

 美しく賢く、控えめでそれでいてしっかりしていて。
 ロザリアにとっても、女王補佐官ディアは理想の女性といえた。その同じ職に就いたロザリアは、その責務に改めてディアを尊敬する念が湧いた。
 だが守護聖たちにとって女王補佐官の基準がディアである以上、彼女と同じほど、もしくはもっと努力しなくては認めてもらえないという焦りが、ロザリアにあることも確かだった。

 紅茶を飲みながら黙ってしまったロザリアを何と思ったか、ルヴァは彼女へにっこりと笑い掛けた。
「新女王陛下は、次々と古い慣習を破っていらっしゃいますねえ」
 ルヴァの言葉通り、即位した256代の新女王は歴代の女王たちとは全く異なり、守護聖たちの前へ出るにも顔へベールを掛けたりもしていない。それどころか、執務に余裕がある時などは気軽に聖地の人々の前に姿を現していた。
「ええ。全く、陛下と来たら、女王としての自覚が足りないのですわ」
 呆れたように、それでも女王陛下への親愛の情を隠そうともせずにロザリアも微笑んだ。

「だからあなたも、あなたらしい新しい女王補佐官になればいいと思いますよ」
 ルヴァの言葉にロザリアは、はっと彼を見た。柔らかな瞳が、ロザリアを見返す。
「そう……ですわね」
 頷いてロザリアは目元を緩めた。そして年相応にいたずらっぽく瞳を輝かせ、ロザリアはルヴァへ笑い掛けた。
「でしたら、ルヴァ様はどんな女王補佐官がいいと思われます? 本ばかり読んで、会議に遅刻したりとか、どうですかしら?」
 ああ、これは。ルヴァは楽しそうに声を上げて笑った。
「いやあ、これは一本取られました。そうですね、そんな調子でいけばいいんですよ。もっとも」
 言葉を切って、ルヴァは一瞬真剣な表情を覗かせた。
「どんなあなたでも、余す所なくわたしはずっと見ていたいと、そう思っておりますよ」

 サラリとすごいセリフを言って余裕で微笑むルヴァを、ロザリアは頬を染めて見つめた。
 あなたと一緒に過ごす時間は、のんびりであったかと思えば一瞬にして胸を高鳴らせる事があったり。敵わないですわ。けれど。
「でしたら、わたくしを見てディア様を思い出すことは、今後一切禁止ですわよ」
 再びちくりとやり返したロザリアにルヴァは苦笑を返し、二人一緒の時間はもう少しだけ続いたのだった。

end



ロザリアindex
NOVEL INDEXTOP




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