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アンジェリークNOVEL
背中合わせ(ゼフェレイ)
 何がきっかけだったのかは、忘れた。
 どちらも忘れたのだが、それでも鋼の守護聖と小麦色の肌を持つ女王候補との口喧嘩は、とどまる事を知らなかった。
「おめーみたいな生意気なクソ女、見たことねーよ」
「うわー! そんなお下品な悪態つく守護聖様がいるなんて、全宇宙の人が知ったら幻滅してひっくり返るコト、間違いないですヨ」

 いつもだったら、オロオロしたアンジェリークが双方へごめんねごめんなさいと連呼して、アナタが悪いわけじゃないヨ、とレイチェルが吹き出してオチがつく。はたまた、緑の守護聖がゼフェルをたしなめて、ちくんとキツイひと言を投げて彼を黙らせたりする。
 けれど今日始めてしまった口喧嘩は、鋼の守護聖の執務室でふたりしかいない場所。誰も止める者がいなければどうなってしまうのか、本人たちにも分からないと来ている。

「ゼフェル様の、天邪鬼」
 べーっとレイチェルが舌を出して見せると、かっとなったゼフェルは机の上にあった書類の束を彼女へ投げて寄越した。ところが上をクリップで留めてあった筈のその書類の束は、クリップが外れて執務室の床へ舞い落ちた。ばさばさと白い書類の紙が執務室へ落ちながら広がり、ゼフェルもレイチェルも言葉を切って呆然とそれを見つめた。
 ぷっと吹き出したのはレイチェルが先だったか。レイチェルの呆然とした顔と、床へ散らばるたくさんの紙を見て、ゼフェルとて可笑しくなって腹を抱えて笑い出したのだった。

 一頻り笑い合って床に座り込んだふたりは、どちらともなく書類を集めにかかった。レイチェルは手に届く紙をかき集めてから、立ててトントンと揃えるように纏めた。ゼフェルのほうは一枚一枚拾い、書類の上下を確認してから反対の手で纏めて持った。
 同じことをするのにお互い違う方法を選んでいるのに気付いて、レイチェルは笑みを洩らした。
「みんな違って、それでいいんですね」
 ゼフェルはちらっとレイチェルを見てからすぐに答えを返した。
「そーだよ」
 レイチェルは今日の口喧嘩のきっかけを思い出した。

 彼女はライバルの女王候補の育成の方法が自分と違う事が気に掛かり、ちょうど鋼の力を双方ともが必要としているのに気付いてゼフェルに聞いたのだ。
「どっちが正しいと思いますか?」と。
 するとそれには全く答えず、ゼフェルはけたたましく彼女を責め出した。おめーは教科書通りの考え方しかできねーやつだとか、いつも上から目線の話ばかりしやがるとか、ああ背がでけーから大雑把でガサツなのかとか。
 なのでレイチェルもついひとつひとつに反応して反論し返した。教科書を読んでもいない人にそんなこと言われたくないとか、ワタシが上から目線ならゼフェル様の俺様な態度は一体なんなのかとか、ワタシがあまり器用じゃないのは背と関係ないだとか。
 ああ言えばこう言う、ゼフェル様の天邪鬼。
 喧嘩ごしじゃなくて、最初からそう言ってくだされば分かるのに。

「それじゃ全然上下が揃ってねーじゃねーか」
「いいんですよ。後で直せば。そのほうが合理的ですヨ」
 あー?
「ゼフェル様こそ、まだそれしか集めてないじゃないですか」
「いーんだよ。この方が皺にもなんねーし」

 まだ素直になんて向き合えないけど。お互い言いたいコト言い合える、それって貴重かも。
 小さく笑ったレイチェルをゼフェルが振り返った。
「おめーの足元にも一枚。……踏むなよ。でけー足跡ついちまう」
 やっぱムカツク。

end



レイチェルindex
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あきゅろす。
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