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アンジェリークNOVEL
離さない(アリコレ)

「とどめを刺せ」
 皇帝の顔が歪む。アンジェリークは何度目か首を振った。
「出来ない……出来ないよ! アリオス」

 片方緑の瞳が光を返す。苦しげに呼吸する皇帝の黒い髪のその裏に、銀の髪が揺らぐのをアンジェリークは感じた。
「我はアリオスではない。我は皇帝レヴィアス。だが……それも潰える」
 やだ! アンジェリークは絞り出すような声で彼の声を否定した。
「皇帝なんて、皇帝なんて捨てればいい! ただのアリオスじゃどうしてだめなの?」
 皇帝は両手を広げ天を仰ぐと嘲笑した。
「我は正当な血を受け継ぐ皇帝。そうとしか生きられぬ。お前とは元より相容れぬ存在。だが、だったらお前が来るか? 我と共に黄泉の旅路へ」
 皇帝の両手がアンジェリークの首へ伸びた。手の輪が僅かに縮まり、アンジェリークは息を飲む。それを感じて皇帝の口の端が上がった。

「いいよ」
 アンジェリークは目を閉じて顎を上げた。皇帝は彼女の反応に怯み、首へ掛けた手が震えた。
「アリオスがそれで安らげるなら、わたしを連れてけば、いい、よ。けどそうしたら、もう、この宇宙の人たちを苦しめないで。誰かを憎む事なんて、もう」
「やめろっ!!」
 勢いよく彼女の言葉を遮り、皇帝の手はアンジェリークの首から離れた。彼の動揺が広間の空間を歪ませるように辺りへ拡がる。
「我の望みは皇帝として君臨し、この世の全てを統べること。なのにお前と……!」
 酷く頭痛に苛まれるように頭を抱えて皇帝は後ろへよろめいた。
「全てを否定して生に甘んじる事など……我には……!」
「アリオス?」
 足を踏み出したアンジェリークへ、近付くな、そう叫び皇帝の姿は消えた。アンジェリークの叫びは誰もいない広間へ響いた。
「アリオス……? アリオスー!!」


 はっと目を覚ましたアンジェリークは、自分の指がしっかりとジャケットの端を握り締めているのに気付いた。
「っんだよ。どうかしたか?」
 ほっと息をついてアンジェリークは彼の名を呼んだ。
「アリオス……」
 銀の髪の青年はふっと目元を緩めて微笑んだ。だが口からは憎まれ口がすぐに出る。
「お前、ここに寝に来てんのかよ。ったく、足痺れちまったぜ」
 自分が彼の膝を枕にしてうたた寝をしていたらしいと気付いて、アンジェリークは真っ赤になった。
「ごめ、ごめんなさい」
 慌てて体を起こしてアンジェリークは背を伸ばした。けれどその手はアリオスのジャケットの端を握ったまま。
「お前、その端っこ気に入ってんのか?」
 それを見てくっと笑うアリオスへ、赤くなったままアンジェリークは言葉を返す。
「勝手に消えちゃ、やだ、から」

 不思議な力によって導かれたこの地で、こうして再び巡り会い、名を呼べる。
「バーカ」
 アンジェリークの好きなその声で、いつもの言葉で。アリオスは彼女へ両手を回した。
「離さないのは、俺もいっしょだ」
 アンジェリークはジャケットの端を握り締めたまま、彼の腕の中で、うん、と頷いた。

end



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