アンジェリークNOVEL
雪解け(ヴィエロザ)
雪が溶けるのは、きれいなばかりじゃない。
車の粉塵で汚れた雪。積み重なった背の高さより上の雪が、溶け、また凍り、また溶けてゆく。
長い間大地を覆い氷となっていた雪には、空気が緩んでからつるはしを振るう。その尖った音は、また雪を迎えたら無駄になると知っていても響く。
溶けて水となった雪が行き場を失い、足を濡らして私を苛立たせる。
踏みしめる再び凍った薄い氷は、下に空気を溜め込みぱりりと音を立てる。
それでも、溶けてゆく。
幾月かぶりに足が踏む大地は、しっとりとやわらかく、暖かい。既にその顕になった地面には草が覆う。眠っていた命だからこそ力強い。
小さなコトに煩わされる私を、小さなモノだと示唆するように。空を目指す命たち。同じように私も、どこかを目指しながら囚われる猥雑な思いをどうしようもなくて。
私は、空を仰ぎ春の空気を吸い込んで目を閉じたっけ。
アンタも。
溶けたと思ったらまた凍ってしまって。どんなに私が歯がゆく思ったか気付いていたかい?
でも信じてたよ。
再び凍ったアンタの奥には、暖かな大地があるってこと。
私を包んでもまだ余りある、豊かなものを抱えていること。
あの頃から持て余しているままの私のイライラだって、全て軽く昇華させてしまうだろういうこと。
いま、私の腕の中で溶けるアンタを。
この指で、この唇で、ゆっくり確かめるよ。もう、逃がさないから。
複雑な心の方程式はもう解けたよね。
その髪も、私の手の中で梳けたよね。
だから目を閉じて。
アンタを感じさせて。
end
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