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アンジェリークNOVEL
Innocence(マルロザ)
「ロザリアって、薔薇のにおいがする」
マルセルがすれ違いざま足を留め、ロザリアにそう声を掛けた。
「部屋にいつも薔薇を飾っておりますの。そのせいでしょうか」
「うん、きっとそうだね。今度僕の庭に咲く薔薇も見に来てくれる?」
そんな約束が交わされた、その後何度目かの日の曜日。

「まあ。素晴らしい薔薇ですわ」
マルセルの私邸の庭に咲く薔薇を見て、ロザリアが感嘆の声をあげた。大ぶりの赤い薔薇は、艶のある花びらが幾重にも重なっている。
「聖地の館には、もっといろんな色のもいっぱい咲いているんだよ。ロザリアに見せてあげたいな」
「ええ、いつかきっと」

生垣の隙間をマルセルが笑い声をあげながら通り抜けたので、それを追ってロザリアもそこを通ろうとした。
「…あっ」
いたずらな枝が、ロザリアの髪を引く。…引っ掛かってしまいましたわ。
マルセルが気付いて戻ってきた。
「じっとして」
マルセルの手が慎重にロザリアの髪を枝から解く。斜め後ろに立つマルセルの表情は、ロザリアからは窺い知ることはできない。思ったよりも長い時間が過ぎ、沈黙の中ロザリアは落ち着かなげに身動ぎした。
「取れた。…けど、縦ロールがほどけちゃった。ごめんね」
その通り後ろの縦ロールのひとつがもつれ、崩れている。
「いえ、よろしいんですのよ。ありがとうございました」
ロザリアは体を捻ってマルセルを見ると、彼はロザリアの縦ロールを手にし、興味深げに眺めていた。
「巻き毛の子って不思議だね。どうしてこんなふうに丸くカールするんだろう」
「マルセル様は真っ直ぐな髪でいらっしゃいますものね」
マルセルはほどけたロザリアの髪のひと房を、自身の唇に当てた。
「…薔薇の香りだ」
ロザリアは不意をつかれ、その胸がドキドキと速く打ち始めた。
「マルセル、さま」
声が甘く掠れたロザリアを見て、マルセルはふふっと無邪気に笑った。

end



ロザリアindex
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あきゅろす。
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