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アンジェリークNOVEL
声(ジュリロザ)
 あなたの言う「そなた」が好き。

 ロザリアはソファーに座り、いつものように彼の執務が一段楽するのを待っていた。待っているといっても、彼女も明日の育成のために資料を調べたりメモを取ったりと忙しく、ただぼうっと時間を持て余している訳ではない。
 光に溢れた執務室は静かで、流れる音といえば、彼が書類をめくる音、羽根ペンでサインを書き付ける音、それが時折聞こえるくらいだ。
 ドアがノックされ、王立研究員が首座の守護聖へ何か指示を仰ぎに訪れた。ロザリアは資料をめくる手を止めて、全身を耳にするかのように息を詰める。

「ああそれなら、確か緑の恒星第五惑星であろう」
 研究員の受け答えを聞いて彼が再び口を開く。
「そのようだな。それほど急を要する事柄ではないが、いつでも対応できるようそのまま監視を怠らないほうがよいであろう」
 研究員が返事をし、彼は頷いた。
「うむ。善処するように」
 研究員が退出し、再び部屋に静けさが訪れる。ロザリアは詰めていた息をほうと小さく吐いた。

 それに気がつき彼が書類から顔を上げた。
「どうした? 退屈させてしまったか。もう少ししたら区切りがいいのだが。そなたの時間を無駄に使わせているのなら遺憾に思う」
 ロザリアは首を振ってにっこり笑った。
「ジュリアス様のお傍で過ごす時間は、どんなものでも無駄になることはございませんわ」
 ジュリアスはロザリアの笑顔を眩しく見つめて口元を綻ばせた。
「いや。やはりすぐにお茶にしよう。どんな音楽よりも快いそなたの声を、どうかもっとわたしの耳に注いでほしい」

 ロザリアはその言葉に頬を染めた。
 わたくしも同じ事を思っていましたのに。静かなこちらのお部屋に響くジュリアス様の声を、ずっと聞いていたいと。
 不器用なほどご自分に厳しい姿勢も、女王陛下への忠誠も、その青い瞳も、流れるように艶やかな金の髪ももちろんとても好きなのだけれど、とりわけ好きなのは……。
「わたくしも……」


 その時突然執務室のドアが開き、アンジェリークが足音高く入室した。
「ジュリアス様こんにちはー! そろそろお茶の時間だと思って、来ちゃいましたー……って、あれ?」
 ジュリアスのこめかみに青筋が浮き出て、もちろんカミナリがアンジェリークへ落ちた。

end



ロザリアindex
NOVEL INDEXTOP




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