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アンジェリークNOVEL
貴方の腕・貴方の背中(ヴィエロザ)
 ロザリアはそっと彼の後ろに近付くと脇からウエストに腕を回した。
「ん?」
 彼は首を巡らしてロザリアの顔を覗き込もうとするが、彼女は彼の背中へ頬を付けてぎゅっと腕に力を入れる。その頬を、明るい金色の髪がくすぐる。
 正面から抱き付きたいけれど。
 アンジェリークのような女の子なら、それも似合うけれど。
 本当は自分からこうして彼へ触れる事も、自分にはとても冒険な行動。きっと赤くなっているに違いない頬を見られることが恥ずかしい。
 けれどぴったり抱き付いた彼女の鼓動は、彼に伝わっているかもしれない。それに気付いてロザリアは腕に入れた力を少し緩めた。
 しなやかで、意外と広い背中。二人に挟まれた柔らかな金の髪。かすかに香るコロンの香り。
 ロザリアは胸が苦しくなる。
 どうすれば伝わる? どうして伝えたらいい? わたくしがこんなに……なこと。

 彼の指がロザリアの腕と手をなぞる。たったそれだけで、ロザリアの鼓動は更に速くなる。彼の腕が動くと腕輪がシャランと音を立てた。それすらも心地よく、ロザリアはうっとり目を閉じる。
「───……」
 彼の唇から小さな呟きが洩れたのをロザリアは感じた。でもそれは本当に小さく、彼女の耳まで届かない。ロザリアは頭を上げ、首を少し傾けて彼を窺った。彼女の腕の力が緩むと彼は体をくるりと回し、あっという間にロザリアは彼の腕の中に囚われていた。
「捕まえた」
 んふ。耳の少し上から聞こえる彼の笑い声。彼女へと回された腕が、耳元に届く声が、ロザリアの頬を赤く染めていく。ロザリアは彼の胸にかかる布を掴み、そこへ額を当てて俯いた。
「なんて、おっしゃいまして?」
 再び低い笑い声。
「──……たら、──…ないって…のさ」
 正面にいるのに、さらに小さくなった囁き声に、ロザリアは思わず顔を上げた。それを待っていたように彼の瞳がロザリアの視線を捕まえた。ふっと口の端を上げ、彼は先程の呟きをロザリアへ今度ははっきりと伝えた。
「後ろにくっついてたら、キスが出来ないって言ったのさ」

 ロザリアは彼の腕の中で赤い頬のまま瞬きをすると、先程まで頬を当てていたその背中へ両手を回した。
 そして自ら、彼の唇を受けるために瞼を下ろした。

end



ロザリアindex
NOVEL INDEXTOP




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あきゅろす。
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