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05-03
忙しかった仕事もシステムの納品が出来て、一人で祝杯でもと思って寄ったラセードは入り口にクリスマスツリーが飾られていた。
カウンターには先に来ていた楓がマスターと何か楽しそうに話している。


「いらっしゃい、葵ちゃん。何にしようか?」
「とりあえずビールで。楓、お疲れ」
「お疲れさま。今日は仕事早いね」
「今日は納品日だったから」


楓は時々きれいに巻かれた髪を触っていた。
こういう仕草をするときは何か話をしたいことがあるときだ。


「で、何?」
「な、何が?」
「話したいことあるんでしょ?」


私の言葉に空気を読んでくれたのかマスターは奥の厨房に下がってくれた。
今日はまだ飲むには早い時間のせいか、他に客はいない。
それでも申し訳なく思いながら、楓を見ると決心したように私を見た。


「忍足くんから連絡あった?」
「…あるはずないでしょ」


予想していたとはいえ名前を聞くだけで少し動揺してしまう。
自分から終わらせたのになんて都合がいいんだろうか。


「葵はどうしたい?」
「どうって…」
「自分の気持ちに気付いてるよね?」


楓に何も返せなかった。
自分の気持ち。
それに気付いたときには遅かった。
もしかしたらあの日、あの背中を追いかけていたら、彼は私を受け入れてくれたかもしれない。
でも彼が何を考えているのかわからない私にはその勇気を出すことが出来なかった。


「もっと単純に、相手を信じてもいいんじゃない?」
「単純って…」
「恋愛ってすっごく単純だよ?」

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あきゅろす。
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