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03-06
ビルのエントランスに着くと外では雨が降っていた。
それでも足を止めたくなくて、雨の中を歩こうとしたら引き止められた。


「触らないで!今更、私に用事なんてないでしょ!?」
「悪かったと思ってる」


道行く人が怪訝そうな目で見て行くのがわかった。
視線から逃げるように出入り口に置かれた灰皿に寄り、煙草を取り出す。
大きく吸った煙は少し自分を落ち着かせた。


「やっぱり葵じゃなきゃダメなんだ」
「彼女は?」
「あいつの我が儘にはついていけない」


話を聞けば、彼女は我が儘なだけでなく束縛もきつくて耐えられない。
それで私とよりを戻したいということだった。
都合のいい話だ。
自分が彼女を選んで、私を捨てたというのに。
胃の痛みがひどくなる。


「許してくれないか」


そう言いながら私の手を取る。
触れた肌がとても気持ち悪いもののように感じて反射的に振り払う。
すると彼はひどく傷ついたような顔をした。
そんな顔は見たくない。
私は足元に視線を落とした。


「つまりは融通もきく葵さんの方がええっちゅーことやんね?」


思わぬ声に顔を上げると、見慣れた姿が二つあった。
楓と忍足くん。
向かい合う彼と忍足くんを置いて、楓が傍に駆け寄って来る。
そして彼の手を振り払った手を優しく繋いだ。
繋がれた手はとても冷たかった。


「今日ね、忍足くんに練習に来てもらってたの。でもこの雨で中止になっちゃって。せっかくだから夕食に誘ったんだけど、葵も一緒にと思って」
「そう…」
「ごめんね。会社まで来て」
「いや、それはいいんだけど…聞いてたの?」
「うん。しっかり」


思わぬ二人の登場に彼は戸惑っているようだった。
忍足くんは微かに笑顔を浮かべるだけで、何を考えているかわからなかった。

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