02-08
『また迎えに来るからここにいててや』
そう言って案内されたスタンド席は、忍足くんのチームが使うベンチの真正面に位置していた。
嫌に視線を感じるのは気のせいだろうか。
それもあまり好ましくない視線。
「あ、出てきたよ」
コートを指しながら言った楓の声がかき消されるほどの声援が上がる。
その勢いに唖然としてしまう。
チームメイトを応援する声と、女性との黄色い声。
「なんかアイドルみたい…」
「あの容姿が揃ってたら仕方ないでしょ」
ネット越しに今日試合をする面々が握手を交わしている。
確かに高校生とは言えないくらい、出来上がったイケメン達。
忍足くんがその中にいることに違和感を感じない。
「ちょっとイイと思った?」
「思わな…っ」
「葵?」
コートに立った男を見て、やっぱり、と思った。
そして、スタンドに向けられた彼の視線を追いかけると例の女の子。
「うそ、最低…」
「まぁ当然だよ。そういう人だったから」
元彼はどこに行くにも彼女を連れて行きたいタイプで、私もどこに行くにも連れて行かれた。
だから浮気に関しては少なからず予感をしていた。
「ちょっと!相手、忍足くんだって!!」
コートに視線を戻すと、忍足くんがコートの中でこちらを見ていた。
そしてその視線は私から外れて、横の女に行く。
再び私の方に視線が戻り、笑った。
ダブルスの相方である赤毛の彼と楽しそうに何か話して、それぞれポジションにつく。
ラケットを構え、顔を上げたとき、彼らがなぜ人気があるのかわかった気がした。
「あれは反則だわ」
「まぁ…ね」
相手を射抜くような真剣な眼差し。
そして、その実力。
不覚にもかっこいいと思ってしまった。
すべての予定が終わった頃には、太陽が傾いていた。
背後で騒がしい声がして見てみると、忍足くんがチームメイトと一緒にいた。
物珍しそうに見ているのを感じて、自然と顔が強張る。
「これから打ち上げやるんやけど、一緒に来ぉへん?」
「いや、いい。遠慮する」
「えー行きたい」
「ちょっと、楓!?」
「じゃ決定ってことで。ええやんね、跡部」
「仕方ねぇな。連絡しておいてやるよ」
跡部と呼ばれた彼は、面白そうなものでも見るように私を見た。
悔しくて睨み返すと、くくくっと笑って去った。
最近の高校生は生意気過ぎる。
その気持ちは打ち上げ会場で、さらに大きくなる。
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