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02-05


土曜は晴天だった。
こんな日は洗車したいのに、と思いながらベランダから愛車を見下ろす。
そんなに汚れているわけではないけれど、高校生の時からの貯金を全額投資して思い切って買った愛車は出来る限り可愛がってあげたい。
そう思っていた。
くわえていたタバコを消し、楓へ「今から向かう」とメールを打ち部屋を出た。


今日は忍足くんと約束をした日。
一人とは約束していなかったので楓を一緒に連れて行くことにした。
受け取って久しぶりに二人で買い物に行こうと心に決めていた。




「捨ててもらったらいいのに」


助手席に乗り込んだ楓は不思議そうに言う。


「やだよ。気持ち悪い」
「何がよ」


どうせ捨てる物なのだから休日を使ってまで取り戻す必要はないというのが楓の考え。
でも思い出(それも嫌な)が詰まってる物が全くの他人の手元にあるなんて我慢出来ない。
恋愛絡みなら尚更だ。
理解出来ないとでもいうような反応をする楓を見て、付き合わせたお詫びにスイーツでも食べに連れて行ってあげようと思った。


「ってかさ。どうなのよ、元彼」
「何にもないよ」
「同じ会社でしょ?」
「担当が違うもん」


元彼は営業で、私はエンジニア。
一緒に仕事をするのは新規のシステムを組むときくらいで、私が受け持つ取引先にはそんな話が持ち上がるような所はなかった。
もちろん同じ会社に勤めているので勤務中に何度か顔を合わすことはある。
ちゃんと挨拶も交わす。
しかしそれは同僚としての対応で、それ以上は何もない。
私はそれを望んでいたし、相手も自分自身の非を当然理解していて、それ以上のコンタクトは何もない。
変わったことといえば例の彼女が今月末で辞めることくらいだ。
少なからず元彼との一件が関わっているらしい。
あくまで噂では、だけど。


「泣きたい時は胸貸すよ」
「借りるならいい男の胸がいいね」
「じゃ、都合いいじゃん」
「何が」
「忍足くん」


赤信号だったとはいえ、いつもより強めにブレーキを踏み込んでしまった。
動揺をしているのだろうか。
それに気付いていて楓は続ける。不機嫌そうな私の顔は見ないフリをして。


「確かに高校生だけど、年齢差は4歳じゃない」
「年齢差は問題じゃなくて」
「幸いなことに私服だったら高校生に見えないしさ」
「何が幸いなのよ」
「駅で渡さずに呼び出すあたり、興味持ってると思うんだ。高校生にとっては年上のお姉さんって魅力的だと思うよ」
「年上のお姉さんって…。言い方が年寄りくさい」


頬を膨らませる楓を見て笑った。
確かに高校生であることを除けば彼氏にはいい人だろう。
あの日、不覚にも触れられて嫌な気持ちにならなかった。
だからといって彼氏にしたいとか恋愛対象になるとかはないけれど。


「私が男だったら葵に惚れるね。女でも惚れそうだけど」
「残念ながら女には興味ないから」
「じゃぜひ」
「んー…まぁしばらく恋愛はいらないや」


まだ元彼が好きなわけじゃない。
今思えば、あの日がなくても終わっていた気がする。
それが遅いか早いかの話なだけ。

だからきっと私は泣かずにいられるんだ。


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あきゅろす。
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