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02-01
女は比較的騒がしい生き物だと思う。
だけど今日はいつもに増して騒がしかった。

引退しても体が鈍るのが嫌で朝練には時々参加していた。
珍しく侑士がいなかったから、どうしたのかと隣のクラスに行くと泣きながら飛び出してきた女と肩がぶつかった。
謝りもせずに走り去った女は一週間前に付き合い始めた侑士の彼女だ。
2年の中で一、二を争う美少女で悔しがってた奴が結構いたって聞いたことがある。
勿体ないことにまた振ったんだろうなと思いながら教室に入ると、突然女に囲まれた。


「向日くんなら知ってるよね!?」
「はぁ?何をだよ」
「忍足くんの本命!」
「なんだよ、それっ!?」


詳しく聞いてみると侑士があの彼女を振ったのは本命が出来たからとか。
他にも曖昧な関係をしていた奴らも同じ理由で関係を切られたそうだ。

まさしく青天の霹靂。
その言葉は瞬く間に校内を駆け抜け、ダブルスの相棒である俺は他のクラスの奴らにも質問責めに合った。
相手は誰か、どんな奴か等々。
そんな事、俺が聞きたいくらいだ。
俺が知る限り一度も侑士が本気になった女なんて居なかったから。

放課後になり部室で会った侑士はいつもと違うように見えた。


「遅いで、岳人」


と笑った顔を見て気のせいだと思った。
まったく廊下で女に囲まれ足止め食らったのは誰のせいだと思ってるんだ。
引退をしていた俺達は後輩の指導という名目で軽い打ち合いや、後輩の相手をした。
時々、侑士の相手もするけどいつもと変わった様子もなく、あの言葉は別れる為の口実かもしれないなんて思った。
終わる頃には日は暮れていて、いつものメンバーで駅を目指した。
駅に着くといつものように先頭車両に乗るべくホームの端に居た。
侑士と他愛もない会話をしながら並んで立っていたら、突然会話が止まった。


「侑士?どうしたんだよ」
「何でもあらへんよ」


喫煙コーナーを振り返った瞬間の顔を見て、あの言葉が別れる口実なんかじゃないと確信した。
あんな顔は見たことなかった。

視線の先には黒いパンツスーツに身を包んだ女の人がいた。
吸いかけのタバコを灰皿に捨てると、携帯を片手に書類をめくる。
その姿は働く女性そのもので、俺達より年上なのがすぐにわかった。

もう一度、侑士を見るといつもの不敵な笑みを浮かべていた。
楽しそうなものでも見つけたって感じだ。
どこの誰だか知らないけど、ご愁傷様。
彼女に向かって歩き出す侑士の背中越しに合掌した。
もちろん心の中で。

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あきゅろす。
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