02-07 「さすが剣太郎」 「サエさんには負けますけどね」 黒羽は楽しそうとは言い切れない、複雑な表情をしていた。 それに気付いた亮は自然に隣に立ち、騒ぐ葵たちには聞こえないような声で話しかけた。 「先手を打たれたって感じ?」 「なんでだよ」 「男の勘」 「んなわけねーよ」 がしがしとタオルで頭を拭きながら言い返す。 そして見上げた黒羽の視線を追うと2階の職員室前の廊下にあった。 そこにはグラウンドを見る人影はなく、職員や生徒が忙しそうに行き来しているだけだった。 「無理してないといいけど」 ふと黒羽がこぼした言葉に亮は笑みを漏らす。 疎遠だったとはいえ、自分の幼馴染を気遣ってくれることに嬉しくなっていた。 そして、それが大切にしているチームメイトであってよかった。 「応援するよ」 「はぁ?」 亮は痛いほどに黒羽の肩を叩く。 訳がわからない行動に説明を求めようとしたら、それに便乗するように葵が同じことをしてきた。 「俺も!」 「だから何を!!」 「じゃのらないわけにいかないのね」 「何なんだよ、お前らは!!」 次々と便乗してくるチームメイトから逃げるように部室へと走り出す黒羽を、亮は楽しそうに見ていた。 それを遮るように携帯が鳴る。ポケットから取り出した携帯のディスプレイを見て、亮はため息をついた。 まだ始まったばかりなのだと改めて思う。 出来ることならこれ以上、彼女が苦しまなくてすむように。 そう願いながら亮は通話ボタンを押した。 [*前][次#] [戻る] |