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01-9



放課後の人の少なくなった学校は昼間と違ってどこか異質な雰囲気を漂わせる。
それが何故かはわからないけれど。
しかし亮はそんな時間が一番好きだった。
委員会を終えて靴箱へ向かう途中の空き教室からひそひそとした声が聞こえる。
不思議に思いながらも通り過ぎようとしたと時に聞こえた声に足を止めた。


「今の声ってバネさん?」


そう思い柱に体を寄せて声に耳を潜めていると、今にも泣き出しそうな女の声がした。


「南浦さんが好きなの?」


学校にほどんど来ることのない悠の名前を聞くことなどなかったのに今日は変な日だ。
悠の名前が出たことで相手の男が誰であるかの確信が持てた。


「そういう訳じゃない。好きじゃない奴とは付き合えない」
「それでもっ、」
「ごめん」


声の調子から黒羽が困っていることがありありと分かった。
それは相手の女も分かっているはずなのに引こうとしないのは、今朝のことがあったからだろう。
普段から男友達と一緒にいることが多い黒羽は自分から女に話しかけることがない。
本人は無意識の行動なのだろうが、だからこそ今朝悠と話していた光景は彼を狙う女達を焦らせたのだ。


「どうしたものかな」


そう溜め息をついたと同時に背後の教室から物音がして亮は柱にもたれかけていた背中を振るわせた。
中の様子はわからないけれど、きっと黒羽は困り果てている。
助けに入るべきかどうかをなやんでいると、逃げ惑うように黒羽が教室から飛び出してきた。


「亮!?」
「や、やぁ」


さすがにこの状態は気まずい。
そう思った亮は少し引きつった笑顔を見せたが、黒羽は亮の姿に安心したのかその場にへたり込んでしまった。
テニス部の中で一番逞しく鍛えられた背中がとても小さく見えて、亮は何があったのかを悟り同情の眼差しを向けた。

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