04-06 「帰った?」 「そう。今朝一番の電車で」 「えー!!!」 コート脇のベンチで葵が不満そうな声を上げる。 それに驚き、悠はドリンクを配る手を止めた。 「悠?」 「あ、ごめん…」 手を差し出していた黒羽にドリンクを渡すと、亮のそばに駆け寄った。 「淳、帰ったの?」 「うん。もともと日帰りの予定だったしね。」 自分のせいかもしれない。 そんな顔をする悠を見て、亮は苦笑いした。 淳は言わなかったけれど、日帰りの予定を変えたのも、突然帰って行ったのも、きっと悠のためだったから。 「外国に行ったわけじゃないんだし、また会えるよ」 そう言って悠の肩を叩いた。 「まーバネはそれまでにがんばることだね」 「なんだよ、それ」 「さぁ?…ねぇ?」 亮に話を振られた悠は、ぶんぶんと音がなりそうなほど大きく首を振った。 「淳って、あぁ見えて諦め悪いよ?」 「亮っ!!」 「なになにー??気になる!」 「葵くんまで!!もー果歩ーっ!」 突然割って入ってきた葵から悠は逃げるように、部室から出てきた果歩へと抱きついた。 困る悠を見かねて、果歩が葵を一喝するとコートへと逃げて行った。 その様子を笑いながら見ていた悠のそばに、黒羽が寄る。 「大丈夫か?」 「うん。」 「…淳って…」 黒羽は言いかけた言葉を飲み込んだ。 聞きたいけど、聞いてはいけないような。 そんな気がしたから。 でも名前を出してしまったら、続きを言わなくても同じことだと後悔した。 「初恋の人」 「え?」 「大好きだった」 悠は笑顔で黒羽を見上げた。 過去形で言われた言葉でも、黒羽を戸惑わせる威力を充分に持っていた。 それをわかっているかのように、悠の細い指が、黒羽の大きな手に絡まった。 まるで大丈夫だというように優しく。 「今は大切な幼なじみだよ」 弱かった自分を支えてくれた人。 恋しさや切なさを教えてくれた人。 きっと、この先にどんな人と出会っても、彼のことは忘れない。 それほど強烈な熱を残した人。 「ばいばい」 声になるかならないか、微妙な音で言う。 でも彼には伝わりそうな気がした。 ---------------- 20100706...end ストーリー自体は短いのに途中で更新停止したりと、長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。 もっとバネさんを男前にしたかった! 後半は黒羽夢じゃなくて、木更津兄弟夢みたいになってしまって…。 思うことを書き出したらキリがないので、このくらいにしておきます(笑) 本当にありがとうございました!! [*前] [戻る] |