04-05
日が暮れてしまうと昼間の暑さがやわらぎ、べたつくような暑苦しさから解放された。
悠は誰もいない公園で、一人ブランコに乗った。
家から近いここはよく淳と寄り道をした場所だった。
家に帰りたくない日は、公園に寄って他愛もない会話をした。
淳は練習で疲れたあとでも、嫌な顔をすることなくそれに付き合ってくれた。
「もう、大丈夫」
誰にでもなく、自分自身に。
悠は言い聞かせた。
海辺で黒羽の手を取ったときに、胸にこみあげてきた愛しさ。
それは他の誰かへのものと比べようがないくらいに大きくて、特別なもの。
心の中で短い間に急激に育ったそれは、悠を戸惑わせたけれど、誰かに代わりが出来る存在ではないと確信させるものだった。
「…悠…?」
聞き慣れた声が名前を呼んだ。
一瞬違う人を想像させたけれど、現れたシルエットで別人だとわかった。
「亮、どうしたの?」
「ちょっと散歩」
亮ははにかむように笑うと、悠の隣のブランコに腰掛けた。
「この前は、ごめん」
突然の言葉に悠は目を見開いた。
そしてすぐにその言葉が淳が帰ってきた日のことを指しているのだとわかった。
「うん…。でもちょっと図星だったかも」
「…え?」
「優しくされて…調子にのってた」
「ばか」
「ひどいなぁ」
悠がくすくすと笑う。
それを見て亮は安心した。
自分の衝動的な行動が悠を取り返しのつかないほど傷つけていないとわかって。
「もう間違わない」
「どういう意味?」
「本当に淳が好きなら追い掛ければよかったんだよ。でも傷付いた自分に酔って、悲劇のヒロインぶって何もしなかった」
「…追い掛けるには子供だったんだよ」
「でもチャンスはあったはず」
ブランコを降りると悠は空へ向かって大きく伸びをした。
「もう間違わない。大切にするって決めたから」
「そっか」
「ありがと。心配してくれて」
「あぁ」
そう言うと悠は公園を後にした。
「お前の出る幕はないってさ」
亮が暗闇に向かって言うと、人影が公園の入り口を入ってくる。
「みたいだね」
「遅過ぎたんだよ、淳」
淳は星空を仰ぐ。
そして深呼吸した。
「いいんだよ、これで。俺たちは一緒にいたらダメになってた」
亮は心が締め付けられた気がした。
きっとその痛みは淳のもので、生まれる前はひとつだったせいで自分にも流れ込んできたんだと思った。
「ヤケ酒なら付き合うけど?」
「こら、未成年!」
「真面目なフリすんなよ」
「うちはうるさいんだよ、そういうの」
「あー…っぽいね、あの人」
楽しそうに笑う淳を見て、胸の痛みには気付かないふりをした。
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