04-04 帰ると言ったもののそんな気にもなれずに、悠は砂浜を歩いていた。 黒羽に声を掛けられた砂浜。 あの日から一気に生活が変わった。 行かなかった高校に行き、臨時だけれどマネージャーとして部活動を手伝うようにまでなった。 そして黒羽と付き合うようになったと思ったら訪れた、淳との再会。 息切れをしているのかもしれない。 悠は潮風を肺いっぱいに吸い込んだ。 夕陽は沈み、空は少しずつ夜空へと変わっていく。 夜は嫌いじゃない。 人の、そして自分の表情を気にせずにすむから。 悠は服が汚れるのを気にする様子もなく、砂浜に座った。 靴を脱いだ足を波打ち際に投げ出し、時々その足先に波が触れる。 突然来た大波は太もも近くまで濡らし、悠は反射的に足を引く。 「悠」 波に混ざって聞こえた声に振り返ると、大きな影が悠を見下ろしていた。 「夏でも風邪ひくぞ」 「…黒羽くん」 悠は声の主が黒羽だとわかって安心した。 「みんなは?」 「今日は解散」 そっか、と悠は呟いた。 黒羽は悠の隣に立ち、海を見る姿を見下ろす。 あの日と同じようだと思った。 自分が隣にいることや、まだ空がほのかに明るいこととか、違う部分はあるけど、悠の様子が同じだった。 目を離したら消えてしまいそうな感じ。 それは黒羽を不安にさせる。 だけど、どうやったら引き止められるなのかわからない。 「どうかした?」 悠の呼び掛けで黒羽は現実に引き戻される。 「いつから名前で呼ぶようになったっけ?」 悠はいたずらっ子っぽく笑った。 黒羽は何のことかわからない様子だったけれど、すぐにその意味を理解して照れ笑いをした。 「悪い…」 「ううん。そんなことないよ」 その言葉にまるで子供のように笑った黒羽を見て、悠は心が締め付けられる。 悲しませちゃいけない。 そう強く思った。 そして、とても愛しくも。 「帰ろう。」 差し出された手を悠はとても自然に掴んだ。 やっと出会えたこの愛しさを手放さないように、大切に、そして強く握った。 [*前][次#] [戻る] |