04-02
果歩に呼ばれて悠は少し助かったと思っていた。
淳の姿を見ると早まる鼓動に、後ろめたさを感じていた。
もう、ふっきったはずなのに。
鼓動が早まるのは、懐かしさのせいじゃない。
伸びた背や大人びた顔つき。
すべてが『男』を感じさせていた。
「悠ってば!」
「えっ!?あ、ごめん。何?」
「悠は淳くんと知り合いなの?」
「うん…。幼なじみだから…」
「それだけ?」
果歩はわかってるよ、と言いたそうな目で悠を見た。
「初恋、の人」
そう口にして、むず痒い気分になる。
同時に複雑にも。
コートに目をやると黒羽と淳がコートに立っていた。
初恋の相手と彼氏。
あまり目にしたくない光景だった。
「どっちを応援する?」
「それは、」
次の言葉がすぐ出て来なかった。
「選べないよ…」
言った瞬間、心が痛んだ。
本当なら黒羽だと答えるべきなんだろうけれど、そう言えなかった。
「ごめん。先に帰る」
「悠!?」
果歩の呼び止めも聞かずに悠はカバンを掴んで走り出した。
無我夢中に走っていたら、いつの間にか海に来ていた。
いつも行くサーファーで賑やかな海岸ではなくて、何重にも重なったテトラポットのある場所。
そこは一人になりたい時によく来る場所だった。
そこから見える砂浜にはまばらに人がいて、そのほとんどが恋人同士だった。
海を見ながら寄り添う姿は何も疑うことなくお互いを思っているように見える。
「いいなぁ…」
悠は呟く。
曖昧な気持ちもなく、ただ純粋にお互いを見つめ合う姿。
それは自分とは正反対だと思った。
「悠」
名前を呼んだ声に背中が揺れる。
もう自分の名前を、この声が呼ぶことはないと思っていた。
「悠…?」
二度目の呼び掛けに振り返る。
「…淳」
悠が静かに名前を呼ぶと淳はふわりと笑った。
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