03-14
帰り道、悠は隣を歩く黒羽を見ることが出来ずにいた。
『悠が欲しいのは誰?』
亮の言葉が何度も頭を巡っていた。
確かに淳を好きだった。
でもそれは昔のことだ。
どうしてそう言えなかったのだろう。
「悠」
不意に呼ばれて名前に驚いて隣を見ると、黒羽は悠ではなく海を見ていた。
いつもは名字で呼んでいるのに。
果歩たちから名前で呼ばれていて慣れているはずなのに、くすぐったい違和感を感じていた。
「楽しくないか?」
「え?」
「一緒にいて」
「そんなことない」
「淳のほうが…」
言いかけた言葉を途切り、黒羽は頭をかいた。
「悪い。今のなし」
立ち止まった足を再び進める。
しかし悠は止まったまま歩こうとしなかった。
「悠?」
「淳は…関係ないから」
そう言った声は震えていた。
黒羽は困ったように笑い、手を伸ばした。
「大丈夫。ごめんな」
謝るのは自分なのに。
悠は泣いてしまいそうに熱くなる胸をぎゅっと押さえた。
「私は…」
続きを言おうにも続かない。
それ以上、何か言えば泣いてしまいそうだったから。
いつからこんなに泣き虫になったのか。
そう自分を叱咤してみるけれど、込み上げてくる涙を抑えきれそうになかった。
「困らせてごめんな」
波の音の合間に響いた優しい声に悠はついに涙をこぼしてしまった。
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