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02-08
ショートホームルームを終えて、ほとんどの生徒の視線は悠へと注がれている。
それを知ってか知らずか悠は顔を上げることなく次の授業の準備をしていた。
机の上に置かれた真新しい教科書とノートを手に取ろうとした瞬間それは悠の手に収まることなく床へと落とされた。
その音にクラスがざわめきたち、廊下を行き来していた生徒も足を止める。
悠は出そうになった溜め息を飲み込み、顔を上げた。


「いい度胸じゃない」


丁寧に巻かれた茶髪に学校には不釣合いな化粧。
ピンクのグロスが塗られた唇は不敵に微笑んでいる。
胸のむかつきを感じながらも悠は先頭をきっている彼女から視線をそらさずにいた。

覚悟をしてきたはずだ。

そう自分に言い聞かせながら、言葉を発しようとしたと同時に視界に入ってきたのは見覚えのある顔だった。
数日前に学校へ来た日に肩を掴んできたあの彼女だ。
あの時と同じように泣き出しそうな目でこちらを見ている。


「あの時と同じことが言いたいの?」


それは目の前にいる女ではなく、後ろにいる彼女に向けてだった。
嫌に静まり返った教室では悠の声がよく通った。
しかし彼女は俯くだけで返事をしようとしない。
二人の間を遮るように先頭の女が割り込んできた。


「わかってるならさっさと帰ればいいのよ。どうせ男目当てで来たんでしょ」


悠は返す言葉がなかった。
その通りだったからだ。
真紀に言われて学校へ来ることを決心したが、それは学校へ勉強をしに来たわけではなく、この自分の中の恋心の行方を捜しに来たのだ。

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