02-05
「調子が悪そうだけど大丈夫?」
「そんなことないですよ」
本当は当たっていた。
体調が悪いとかではなく、亮から聞いた言葉が頭から離れなくて集中が出来ずにいた。
そしてそんな事に揺らいでいる自分がとても嫌で。
私は黒羽くんが気になっていて、それが恋なんだと思っているはずなのに…。
「海に溶けてしまえたらいいのに」
つぶやいた言葉はとても情けないもので、それを真紀さんの前で見せていることがとても恥ずかしかった。
でもそれを戻すことも繕うことも出来ないほどに私は冷静に考えることが出来なかった。
自分の心なのにこんなに翻弄されて、苦しくなって。
それでもどうして想う気持ちは消えてくれないのだろう。
どうして苦しいのに会いたいと思うのだろう。
「溶けたらサーフィン出来ないよ?人間だからこんなに楽しいのにもったいない」
「楽しい?」
私の問いかけに真紀さんはまた笑顔を見せる。
「海を見て綺麗だと思うのも、誰かを好きになるのも、人間の特権だよ」
そう言うと海へと飛び込んで行く。
私はその姿を見ながら、そんな前向きになんてなれないと思った。
そして、そう思ってしまう自分が本当に嫌になっていた。
「今日は、帰ります」
「悠」
「はい?」
私はサーフボードを抱えなおして真紀さんを見た。
真紀さんはいつになく神妙な表情で私を見ていた。
その表情に反射的に身構えて、続きを待っているとゆっくりと話し出した。
「あのさ、ずっと言おうと思ったけど悠が自分で答えを出すのを待ってた」
「何の話ですか?」
「高校に、行ってきな。じゃないといつまでも前に進めないよ」
「真紀さん?」
「悠は学校に忘れ物をたくさんしてる」
その言葉になんて返事をしたか覚えていない。
もしかしたら返事をしていないのかもしれない。
ただこの私を迷わせているすべてのものから解き放たれるための答えがそこにあるなら、学校へ行くべきなんだろうと思ったことは覚えていた。
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