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叩かれた頬が酷く痛んだけど言い訳をする気にはなれなかった。
彼女の言い分は正しいし、事実関係も間違っていない。
あえて言うならば貴方の真っ白さ故の過ちだということ。

跡部が彼女を恋人に選んでから半年。
嘘のように女遊びがなくなり、本気なのだと噂になった。
同時にプラトニックだとも。
罠を仕掛けたのは私。
お酒と友達というを立場を使えば簡単だった。
後悔はしないと誓ったし、実際にしてもいない。


「二度と話さないで。会わないで」


大きな瞳を濡らして言う。
それに私は頷いた。
今更、会えるわけもないのに何を心配するのか。
跡部とはそういう男なんだ。
敵とわかれば誰でも切り捨てる。
二度と話すことなんてない。
彼女が扉を開けた先に見覚えのある髪が見えた。
でもそれは去ることなく、扉は閉まる。
笑うしかない、とはこういう時に使うのだろうか。
いつもは騒がしい屋上に一人残され、それがいっそう私に孤独を感じさせた。


「だいじょぶ?」


舌ったらずな口調に顔を上げるととジローがいた。
うん、と伸びをすると苦笑いしながら、聞いちゃったと言った。


「寝てた?邪魔してごめんね」


ジローは返事をせず、私の足元に胡座をかいて座る。
そして隣を叩き、私を急かした。
断ることも出来ずしゃがむとジローは顔をまじまじと見てきた。


「少し赤いね」


頬に触れた指の冷たさに身じろぎする。
何となくジローは指先までも暖かい人なんだと思っていた。
ジローはふわりと笑うと額同士をくっつけて瞳を閉じる。


「痛いのがぜーんぶ飛んでいきますよーにっ!ね?」


いつもの笑顔で言う。
眩しくて涙が我慢出来ずに零れた。
私が泣くなんてお門違いなのに。
ジローの舌が涙をすくい離れた。
ジローはへへっと笑いながら優しく私の頬を撫でる。
そして額に、瞼に、頬に。
ジローはただただ優しく唇を寄せる。
まるで壊れかけたものを慈しむように。


「人に優しくしてもらえないとからっぽになってパンクしちゃうんだよ」
「でも私は、」
「いーの。俺がしたいの」


最低だと罵らたほうがマシだ。
こんなに優しくされたら心が壊れてしまう。
ジローの大切な友達を傷つけたから、復讐のために騙してるって言われたほうが楽。
でもそんなこと絶対にしないって知ってる。
だからまた私は泣くんだ。

まるで聖母のようだと言ったら怒られてしまうかな。


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2008/3/20
(2012/5/7 加筆、旧サイトより移行)
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