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ドアを開けようとした腕を引かれ足が止まった。
振り払おうにも男の人の力に勝てるわけがない。
私の腕を持ったまま部屋を出て、エレベーターホールへと歩いた。


「今日やなかったらもう受け取らへんよ」
「渡すものなんてありませんから!」
「ほんまに?」


眼鏡の奥の瞳は真剣だった。
反らすことも出来ず、私はただ見上げた。


「私…」


言いたくないのに引きずられる。
こんな場所で何の準備もなく言いたくない。
全身の感覚が捕まれた腕に集中しているようで、とても熱い。
無意識にか震えていた。


「やっぱりあかんかな?」


忍足さんは腕を離すとその手を自分で強く握った。
震えていたのは私じゃなくて彼だった。


「結構大勝負のつもりやったんやけどな」
「忍足さん?」


俯きながら呟く。
なんだかいつもより小さく見えて、申し訳なくなってしまった。


「時間も遅いしせめて食事だけでも。あかん?」


上目遣いに見て言う。
それを断ることなんか出来るはずがない。
私は頷いた。
すると次は手を捕まれ、着いたエレベーターに引き込まれた。


「嫌なんやったら最後まで断らなあかんよ」


私を見てにやりと笑った。
全て作戦だったんだ。
うんと言わせるための。
空いている手で頭を抱えるように見せて赤い顔を隠す私は、それでも作戦にはまってもいいと思っている。
きっとそれさえ彼の策略なのだ。


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2008/2/13
2008年バレンタインデー企画
(2012/5/6 加筆、旧サイトより移行)
title;確かに恋だった
熱く甘いキスを5題
1.恋の味を教えよう

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あきゅろす。
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