1--その後
「あら、お見事」
揉みくちゃにされたであろう乱れた姿で宍戸は現れた。
本日は卒業式。
これが最後と言わんばかりに後輩達は彼に纏わりつき、目的のモノを得ようと争いを繰り広げるのだ。
日頃から彼女達の扱いに慣れている跡部や忍足は何十分も前に来て準備万端だ。
それに追いつこうとするかのように急いで着替える音がロッカールームに響く。
●はそれを扉の前で聞いていた。
「テニス馬鹿よね」
「あ?」
いつものウエアにキャップを被った宍戸が現れる。
少し違って見えるのは今日が卒業式だからだろう。
ちょっとナーバスになっている自分に気付き●は苦笑いした。
「卒業式の後までテニスなんて」
「お前も人のこと言えないだろ」
宍戸は●の持つラケットを軽く叩いた。
それを横目で見ながら、慣れた手付きで髪を結う。
本日のコートは貸切。
テニス部の面々は、名残惜しそうにコートに立っていた。
「勝負、しようぜ」
「は?」
「いつものじゃなくて、試合」
「…何を賭けるのさ」
宍戸はポケットを探ると、●の手に転がした。
「●が勝ったら返していい」
「負けたら?」
「とりあえず、貰っとけ」
手の中には太陽を浴びて金色に光るボタン。
それをポケットに入れると、ベースラインに付く宍戸を見た。
「最後までこれですか」
溜め息をつきながらボールを高く投げた。
テニス生活の最後を負け試合で締め括るつもりはない。
とりあえず、ポケットの中に潜む物の存在は忘れよう。
そう思って打ったサーブは、コートの隅を目掛けて飛んでいった。
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2007/4/4
(2012/5/6 加筆、旧サイトより移行)
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