だから、来て。 「ねぇ留、口付けしても良い?」 そう聞いて来たのはもう付き合って一年になる名前だった。 そんな風に言って来るのは珍しく、少し驚いていると俺の返事も待たず口付けて来た。 「名前……?」 唇が離れた時、悲しそうな表情をした気がした。 「ね、もう一回しても良い?」 またも返事をまたずに唇を重ねられたが、今度は舌が侵入して来た。こいつからこんな事して来るのは初めてで驚いたが、俺は勿論それに答えてやる。 「ん……。」 主導権を奪ってとことん口内を犯してやると、名前の声が漏れて来て内心ほくそ笑んだ。 ここまですると火がつくのが男心ってもんで、名前の体をなぞるように手を下に伸ばそうとした所で、体を押し返された。 「ごめん、留。私……話があって来たの。」 俯いて言う彼女に嫌な予感がした。 まさか……別れ話だろうか……。これが最後の口付けだとか……絶対言わせねぇ。 「私、留の事好きよ。」 「俺も……名前が好きだ。」 好きだと言われているのに不安が拭えないのは、俺の顔を見てくれないからだろうか。それとも心なしか名前の声が震えているからだろうか。 「でもごめんね……。私、結婚しなくてはならなくなったの。この学園も辞めるわ。」 「何だよ、それ……!」 以前名前が親に政略結婚させられるかもしれない、と言っていたのを思い出した。あの時名前は笑って言っていたから冗談だと思ったけど、本当だったんと今になって思い知らされた。 「だからね、留。お願いがあるの。」 お願いだから別れて、と言うつもりなんだろ? 「そんなの……聞きたくねぇ。」 女々しいとか思われるかもしれないが、名前を手放す事なんて出来ない。 「……留は私と別れたい?」 「別れたくなんかねぇよ!」 俺はもう、お前が居なきゃダメなんだ。 「私も別れたくない。」 その言葉に俺は顔を上げた。いつの間にか俯いていたのは名前じゃなく、俺になっていた。 「ね、お願い。」 名前は俺が惚れた笑みを浮かべて言った。 だから、攫いに来て。 (そんなの、俺の答えは決まってる) 20100125 戻る |