溶け込む 「三郎はどうして雷蔵の変装をしているの?」 聞きながら自分でも今更だなぁと思った。三郎はもしかしたら答えてくれないかもしれない。大切な事は何時も三郎は誤魔化してしまう。 「……雷蔵なら良い気がした。」 答えてくれた事に少し驚きつつも、意味がわからないので聞き返した。 「どういう事?雷蔵なら顔を借りても怒らないから?」 「そうじゃない。」 「…………?」 三郎の言おうとしている事がよくわからなかった。 「名前は私が死んだらどうする?」 「そんなの……例え話でもしたくないよ。」 どうしてそんな話になるのかがわからない。ただ、三郎の事を知りたかっただけなのに。 「雷蔵に変装していれば、私が、鉢屋三郎が居なくなってもわからないだろう?」 「そんなわけないじゃない……!」 震える声をおさえられなかった。視界も滲み始めたかもしれない。 「私が居なくなって、名前が雷蔵に私を見付けてくれればそれで良い。お前の見つめるその先が、雷蔵なら私は許せる気がした。」 三郎は自分が居なくなる事を前提に、変装をする相手を選んでいるとでも言うのだろうか。 「雷蔵は雷蔵で、三郎は三郎なんだよ……?」 三郎の変装は完璧で、見た目じゃそう簡単に二人の違いがわからない。だからと言って同一人物であるはずがない。 私は急に怖くなって、三郎にしがみついた。 「名前、愛してる。」 「……私も愛してる……。」 三郎の温もりが、彼が此処に居る事を証明していたけれど、私の不安は消えなかった。三郎が何時か消えてしまうのではないか、と。それでも三郎の存在が消える事は決して無いんだよ。三郎にはわからない?三郎の存在はこんなにも私に刻み込まれているのに。 貴方に溶け込む 20100110 戻る |