海に溺れたい 「……うっ……。」 声を抑えようとしてもどうしても漏れてきてしまう。吃逆まで出て来て、子供みたいな泣き方だ。目も擦り過ぎて絶対真っ赤になってるし、涙だけじゃなくて鼻水まで出て来て、こんな汚い顔勘ちゃんに見せられない。 ああでも勘ちゃんの顔を見る事も、もうないのかもしれない。彼はもう私の事を嫌いになってしまったのだから。 偶然にも見てしまった。 彼がくのいちの先輩と私服で出掛けて帰って来た所を。しかも口付けをする瞬間まで……。 ぼろぼろと涙が止まらない。 彼はもう私の事なんて嫌いになってしまったのだろう。勘ちゃんと離れるなんて嫌だ。でも、勘ちゃんが幸せならそれで良い。勘ちゃんが笑っていてくれるなら、それだけで良い。さよならするなら笑ってしたい。最後に彼の記憶に残るのが、泣き腫らした顔なんて嫌だ。だから、 「来ないで……!」 私を追って来た彼に、顔も見ずに言った。 「名前ちゃんごめんね、ごめんね。ごめん。」 私を後ろから抱きしめながら、彼は何度も何度も謝った。彼のそんな行動に余計に涙が溢れて来る。 謝らなくちゃいけないのは私の方だ。本当はわかってる。くのいちの先輩が色の授業で勘ちゃんを標的にしたって事くらい。口付けだって先輩からしていたのを私だって見ている。勘ちゃんは悪くない。 「名前ちゃん、ごめん。名前ちゃんが一番好きだから、」 嫌いにならないで。 耳元で掠れた彼の声がした。 嫌われたくないのは私の方だよ。 「勘ちゃん……!」 居ても立ってもいられなくて、勘ちゃんの胸に顔を埋めた。 「ごめんね、勘ちゃん。好き。」 「うん、俺も好きだよ。大好き。」 頭の良い彼の事だから、全てわかっていたんだろう。それでも好きと言ってくれる彼が愛おしくて仕方なかった。 「愛してるよ、名前ちゃん。」 愛の海に溺れたい (愛してるって言って欲しかった。) (我が儘でごめんね。) ***** 一周年アンケート反映話。 20110430 戻る |