闇ニ溺レル それは突然だった。 何の前触れもなく、痛みも、苦しみもなく、私から光が失われた。それと同時にくのいちとしての道も潰えたのだ。 全盲の私など、本来ならばこの学園に居る意味など無くなった時点でさっさとここから出て行くべきなのだ。だが、この学園はこんな私を雇い、居場所を与えてくれた。感謝してもし足りない。忍術にしか取り柄のない私など、遊郭で働くくらいしか生きて行く術が無かったのだから。 「名前。」 「何、三郎。」 私を畳に押さえ付ける三郎を見上げた、はずだ。 「何故抵抗しない。」 「あら、抵抗して欲しかった?三郎は無理矢理ヤるのが好き?」 私の手首を掴む手の力が強まり、痛い。 彼は私が雇って『もらっている』から抵抗しないと思っているのだろうか。誰にでもそうだと思っているのだろうか。 「煩い、黙れ。」 自分から聞いて来たくせに不機嫌そうに言うと、乱暴に口付けて来た彼は今、誰に変装しているのだろう。何時ものように不破雷蔵でも、その他の人間でも、私にはもう確かめようがないのだ。ただ確かなのは、聴こえるこの声が鉢屋三郎だという事だけ。 今の私にはもう、声でしか彼を判別する事が出来ないのだ。まだ忍のたまごである彼は、声を似せる事は出来ても、同じではない。でも彼がこの先、声をも完璧に真似る事が出来るようになったら……?私は彼をどうやって判断したら良いのだろうか。 変装を極めて欲しくないとは思わない。それが忍としての彼を生き長らえさせるのだから。 でも、だから。 お願い。 声で貴方がわからなくなる前に、もっと本当の貴方を、全てを、私に刻み込んで欲しい。 貴方だけは決して間違えたりしたくないから。 闇ニ刻ミ、溺レル (貴方は私の気持ちなど、気付いていないのでしょうね。) 20100621 戻る |