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摂津のきり丸と


名字先輩は俺が図書委員を始めた時からずっと図書室に来ていた。聞いた話によると先輩が一年の時からずっと六年間そうらしい。それでも先輩は生物委員会の委員長をつとめているから驚きだ。

あ、名字先輩の「声」だ。

ピィー、と澄んだ音が中庭に響いた。名字先輩の指笛だ。
早起きは三文の得だとか言うから早起きは嫌いじゃないけど、早朝は名字先輩を見れるから本当に得だと思う。名字先輩は毎朝動物達を訓練しているのだ。
指笛に反応して先輩の元に狼達が集まって来た。愛おしそうに狼を撫でる先輩を見て、狼を羨ましく思った。あんな風に俺も撫でて欲しい、抱きしめて欲しい、だなんて。

ずっと見ていたからか、視線に気が付いた先輩が手招きをして俺を呼んだ。

「おはようございます、名字先輩。」

近付くとそのままぎゅっと抱きしめられた。
ああ、先輩のこういう所、好きだ。俺が素直に言えなくても、それを感じ取って行動してくれる。

でもこの気持ちが一体何なのか。
不意に心配になるんです。恋だと思っているこの感情がそうではなく、母親に対する感情と類似したものではないのだろうか、と。

俺は名字先輩に母親を求めているのだろうか。

「名字先輩……。」

不安になり、先輩の装束を掴んだ。泣きそうで顔を上げる事が出来なかった。

それでも俺は俺なりに名字先輩の事を好いているんです。
それは紛れも無い真実なんです。



20111008

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あきゅろす。
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