[携帯モード] [URL送信]
08


「きり丸、有難う。名前さんを連れて来てくれて。」

善法寺くんはきり丸くんに向き合った。するときり丸くんはただでさえ眉間に寄せていたシワを更に深くして言った。

「別に。オレは自分の命を粗末にする人間が大嫌いなだけだから。そいつの嫌がる事しただけだし。」
「きり丸!」

私は随分と嫌われているようだ。善法寺くんが私の様子を心配そうに窺っていたけれど、そんなに気にしてはいない。驚いたけれど。
きり丸くんはそのまま保健室から出て行ってしまった。

「名前さん、すみません……きり丸が……。」
「いえ。大丈夫です。」
「……嫌いに、ならないであげて下さいね。」

そう言った善法寺くんの笑みが何時もと違う、悲しそうな、切なそうな、何とも言いにくい感情が含まれているのが気になった。

「……どうしてそんな顔して笑うんですか?」

言ってしまってから、はたと手で自分の口を塞いだ。
余計な事を聞いてしまった。そんな事、私には関係ないじゃないか。聞く権利なんて、私にはない。

「気を落とさずに聞いてくれますか?」

善法寺くんはあの表情を変える事なく言った。理由を、聞かせてくれるらしい。
私は彼の目を見つめる事で話を促す事とした。

「きり丸は……戦で両親を亡くしているんです。だから、自ら命を絶とうとする自傷行為を許せないんでしょうね。」

それは平和な世界で生きて来た私には衝撃的な言葉だった。
きり丸に言われた憎しみの籠った言葉が脳裏を過ぎった。……だから、彼は……。

「名前さん!?」

気が付くと私は泣いていた。さっきは我慢した涙が、とめどなく溢れて来た。慌てる善法寺くんも何もかもが滲んでいた。
違うの、善法寺くん。私は自分を責めているわけでも、今までの行為を後悔して泣いているわけでもないの。こんな理由、言えるわけないよね。

きり丸くんが羨ましくて泣いた、だなんて。




20100214

戻る

[前*][次#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!